「セ・リーグなら執行猶予で済むところを、パ・リーグはいきなり実刑食らっちゃいますから」

 独特な表現でセとパの違いについて述べたのが、3年前に引退した山崎武司である。

 

 山崎はセで16年、パで9年プレーした。どちらのリーグ事情にも精通している。

 

 山崎のいう「執行猶予」「実刑」とは、球団との契約のことだ。セなら少々成績が落ちても、年かさが増しても、何年かは球団が面倒をみてくれる。ところが、パでは力が落ちると、スパッとクビを切られるという意味だ。

 

 近年、両リーグの実力格差がより明確になってきた。昨季の交流戦はパが勝率5割8分1厘と圧勝した。シーズンをトータルでみると、勝率1位は福岡ソフトバンクの6割4分7厘、2位が北海道日本ハムの5割6分だった。言うまでもなく、最も移動距離の長いのが両チームである。

 

 その原因について、山崎はこう語る。

「よくセ・リーグの中に“日程がきつい”と文句を言う選手がいるけど、パ・リーグを経験した僕に言わせれば、“お前ら、何言ってるの?”という感じ。セ・リーグの移動がほとんど新幹線であるのに対し、パ・リーグは飛行機中心。ギリギリで間に合ったということも何度かありました」

 

 さらには、こんな裏話も。

「楽天時代には盛岡で試合やって2時間バスに揺られて仙台に帰ってきたこともがあった。その間、何も食べられないんです。こっちはお腹が減って仕方がない。楽天は球団持って1年目ということもあり、そういうノウハウがながったんでしょう。“お前ら、何やってんの?”とフロントに文句も言いたくもなりましたよ。でも、逆の意味では、それによってハングリー精神が培われた。こういう経験、今のセ・リーグの選手はしてないと思います」

 

 山崎は「パで通用するのは若い選手、ベテランでは体力のある選手」と明言する。老兵はただ去りゆくのみ、ということか。

 

 セ・リーグで最も移動距離が長いのはカープである。黄金時代を築きあげた山本浩二、衣笠祥雄らは一様にタフで、屈強な身体の持ち主だった。ドラフトやトレードで選手を獲得するにあたり、カープの場合、もう少し体力や頑丈さに比重をおいてもいいのではないか。山崎の話を聞いていて、そんな思いを強くした。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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