第64回 ボランティアアカデミーの本当のねらい
2016年がスタートして1ヶ月。今年はパラリンピックイヤーです。テレビや新聞などのマスメディアに、パラリンピックの選手や大会の情報を目にする機会が激増しました。パラリンピックへの関心は急速に高まっているのです。そんな中で、パラスポーツを「見る」だけでなく、「支える」「関わる」という関係を求める人が増えていると感じています。
それは、昨年3月に開講した「ボランティアアカデミー」への関心の高さでも感じました。定員をはるかに超える応募をいただいたり、多くの企業や団体から見学の希望をいただいたりしたのです。またその後、昨年11月から、パートナー企業である清水建設と、社員とそのご家族向けの「シミズボランティアアカデミー」が実現しました。2020年のパラリンピック開催が決まって以来、何らかのかたちでパラリンピックを応援したい、という個人、企業や団体は確実に増えています。もともとのボランティアアカデミーも、多くの方から「パラリンピックのお手伝いをしたい」「ボランティアで参加したい」と寄せられた声をきっかけに立ち上げたものです。予想通り、社員やそのご家族の関心は高く、すでに今月2回目の開催も決定しています。今後、社屋や研究所のある地域との連携も進めていく予定です。
さて、このボランティアアカデミー、当初は様々なパラスポーツの大会や現場でボランティアをしていただく方を増やしていこうと考えたのが出発点でした。パラリンピックや国際大会に経験豊富なパラリンピアンの方たちと、講座の内容を企画、テキストづくりを進めました。パラリンピアンの皆さんへのボランティアに関するアンケート調査、実際の国際大会のボランティアの現場の取材に基づいています。実際の講座は、講義と実技を組み合わせました。こうして準備していくうちに、わたしたちが目指しているのは、大会ボランティアの技術講習を超えて、ボランティア・スピリットの涵養ではないか、という思いを強くしました。さらには、この講座を受講した方たちこそが、障がいを超えたコミュニケーションを実現し、共生社会をつくって行くことになるのではないかと考えました。
そうなってくると、講座名は「ボランティアアカデミー」ではなく、「パラリンピアンから学ぶ、障がいを超えたふれあい講座」となります。しかし、ここで一考しました。わたしたちが毎年各地で開催しているパラスポーツ体験会は、とにかく参加者を集めるのに一番苦慮します。一度来ていただければ、パラリンピアンの素晴らしさ、パラスポーツの面白さを理解いただけるのですが、まだ触れたことのない方にとっては、「パラスポーツ体験会」と言われても、川向こうの関係ないことと思われてしまうからです。募集をしても、人が集まらなければ、始まりません。やはり、講座は「ボランティアアカデミー」の名称で、前述のような人を対象に募集をすることとしました。講座を終えたとき、本来の目的である障がいを超えたコミュニケーションを実現でき、共生社会への一歩とすることができるのか、恐る恐る始めたのです。
心配は杞憂に終わりました。終了後のアンケートにこんな記述がありました。「講座の2日後、街なかで白杖を持った人を見かけました。生まれて初めて思い切って声をかけました。そして、近くの目的地まで案内しました。これからも、こういうことをやっていけると思いました」。また、清水建設のアカデミー終了後にも、「体験を通して、日常でもできるようになりたい」「障がいのある方の気持ちがわかった。実際に当事者になってみないと気付けないことばかり」「相手の立場から見る、相手の気持ちになり、耳を傾ける」という声が聞かれました。
我が意を得たり。ボランティアという行動への意欲から受講して、その中で自然と障がいへの理解、障がいのある人との距離感に変化が生まれたのです。きっかけをボランティアという言葉から得たとしても、多くの人が共生社会への力となることを確信しました。今年はすでにあと3回の実施を計画しています。更に積み重ねて、共生社会を目指したいと考えています。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>