好意的に解釈すればNPBの危機意識の表れだろう。2度と不祥事は繰り返さないということか。

 NPB恒例の新人選手研修会で、これだけ生々しい証言が紹介されたことは記憶にない。昨年の巨人選手による野球賭博が球界に与えたショックの大きさを物語っている。

 

 

 貴重な体験談を披露したのは317勝投手の元近鉄・鈴木啓示だ。現役を引退して、スナックを経営していた先輩から暴力団関係者との付き合いを迫られた。断ると「野球できへん体にしてやるぞ」とスゴまれたというのだ。まるでVシネマのひとコマである。

 

 プロ野球のみならず、スポーツの世界における先輩、後輩の関係は絶対である。NOと言うのは容易ではない。

 

「野球できへん体にされたら、実家の酒屋の商売でも手伝いますわ」

 こう言い返すだけの意志の強さがあったから、鈴木は大投手になれたのだろう。

 

 鈴木によると、これは彼が22歳、1969年の出来事。同年10月、球界を揺るがす「黒い霧事件」が発覚している。

 この頃、いかに八百長が球界に蔓延していたか。パ・リーグの球団幹部(当時)から、こんな裏話を聞いたことがある。

 

「(野球賭博の)胴元が一番知りたいのは先発投手の情報。ベンチの中に、試合開始30分くらい前になるとソワソワし始めるヤツがいる。

 10円玉を何枚か持って公衆電話に行くんですよ。おそらく胴元に先発投手を伝えようとしていたんでしょう。

 こういう怪しい動きをしている選手には、こちらも警戒しましたよ。警察とも情報をやり取りしながらね」

 

 結局、黒い霧事件では永久失格選手6人を含む20人が処分を受けた。プロ野球史上最大の不祥事である。

 

 ところが近年、黒い霧事件を知らない選手が増えてきた。過去の過ちをしっかり学ぶことこそが、最大の再発防止策となるのではないか。

 

<この原稿は『週刊大衆』2016年2月8日号に掲載されたものです>


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