今季から高知で指揮を執ることになりました。
「監督をやってみないか」
 江本孟紀総監督から打診をいただいたのは、昨年の日本シリーズ第5戦の試合前でした。江本さんはニッポン放送、僕は文化放送で解説をするため、偶然、神宮球場で隣のブースになったのです。

「高知には縁もゆかりもないし、アイランドリーグのことも全然知らない。生活もどうなるかわからない」
 率直に最初は「引き受けるのは無理かな」と感じました。でも、僕は人から頼まれたことを断れない性格。何とかできないものかと考えていると、女房から「やってみたら」と後押しを受けました。

 もうひとつの就任を決断した理由は、指導者として不完全燃焼の思いがあったからです。これまでコーチとしてNPBや大学で教えてくる中で、細かいことをあれこれ選手に押しつけるやり方に疑問を抱いてきました。僕は現役時代から常識にとらわれないタイプ。「なぜ、こんな練習をしなくてはいけないだろう」と納得がいかないことを選手にやらせるのは、どこか複雑な心境でした。

「オレの野球観は間違っているのか」
 これを試す場として高知で監督をするのは、ちょうどいいんじゃないか。そう思い、要請を受けることにしました。

 実際、2月1日からキャンプが始まりましたが、選手は一生懸命、トレーニングに取り組み、いいスタートを切れたと言えるでしょう。ただ、野手のバッティングを観ていると、「うまく打とう」という気持ちが強く、思いきってバットを振れていない傾向があります。

 昨季のチーム打率は.223でリーグ最下位だったと聞きました。チームを率いていた弘田澄男前監督は、横浜時代にコーチと選手の関係でしたから、その考えは理解しているつもりです。目指していた方向が間違っていたわけではないでしょう。

 しかし、選手たちは弘田さんの求めることをプレーで表現できなかった。そう僕はとらえています。弘田さんに2年間、基礎固めをしていただいたおかげで、むしろ僕は選手に伸び伸びと野球を楽しんでもらうことを伝えられると感じています。

 前監督の教えは頭ではわかっているはずですから、後はそれをどう生かすか。狙い球の絞り方を勉強しているなら、次はシンプルにそれを打ち返すことに集中してほしいと思います。野球はどんな好打者でも3割しかヒットが打てません。打ち損じたり、裏をかかれることもあるでしょう。それはそれで仕方ないのです。低めの球を捨て、高めのボール球を打ってアウトになっても僕は怒りません。アウトコースを狙ってインコースのボールを見逃し三振してもやむを得ないという思考法です。

 僕が今までの野球人生で出会った監督では、横浜時代の権藤博さんのアプローチが近いかもしれません。権藤さんは「失敗してもいい。逃げずに挑戦しよう」と常に前向きでした。この姿勢をベースに、王貞治さんから学んだ野球に対する厳しさや、藤田元司さんの選手をほめて乗せる方法をミックスさせながら、僕なりのチームをつくりたいと考えています。

 キャンプ初日では野手陣に技術的なことは一切言わず、「体全体を使ってスイングする」ことを徹底しました。2日目からは早速、ガンガン、バットを振っていたのはうれしかったです。意識が変われば、持っている力が開花する選手は必ずいると信じています。

 たとえば、主将を務める河田直人はNPBでも通用するパンチ力があるのではないでしょうか。ところが、確実性を求めたいせいか、ボールにバットを当てに行こうとしている部分がみられます。まずは体幹を使ってドカンと振り抜く。この原点を追求していけば、現状のまま、終わる選手ではないでしょう。また右バッターでは22歳の宮下黎も楽しみな存在です。

 監督が試合中にできることは限られています。僕の采配で何とかすれば勝てるようになるとは考えていません。スタメンで起用した選手を信頼し、「負けるもんか」という強い気持ちで力を100%発揮できる状況をいかにつくるか。こちらが、その日のベストメンバーだと信じてグラウンドに送りだしたのですから、少々、ミスをしても交代するつもりはありません。

 もし、早めに選手をスイッチするようなことがあれば、それは監督やコーチに観る目がなかったととらえてくれてOKです。2月9日から始まる実戦では、まず元気を出して、はつらつと自身のスタイルを出してくれればと願っています。その中で選手の適性を見極め、使い方を考えるのが僕たちの仕事です。

 ピッチャーの継投もできる限り、引っ張って投げさせたいと考えています。たとえ続投して打たれても、それが選手にとって成長のきっかけになるなら、長い目で見ればプラスです。継投でしのいで目先の勝利にこだわるのではなく、失点しても野手が打って取り返すようなチームになる。これが僕の理想です。

 僕がおおらかな性格の一方、投手担当の吉田豊彦コーチ、野手担当の勝呂壽統コーチは理論派で締めるところは締めてくれるはずです。その点、コーチ陣とは、ちょうどいいバランスがとれると心強く思っています。

 今回、高知には単身で乗り込み、選手と同じアパートで暮らすことにしました。地元の新聞、テレビでは連日、チームのことが取り上げられ、期待の高さを実感しているところです。もちろん、目標は優勝とNPB選手の輩出。とはいえ、僕たちは昨年、最下位のチームです。そう簡単には勝てないと覚悟しています。

 ただ、どんな結果になろうとも、球場に来たお客さんに「楽しかった」と帰っていただける野球をお見せすることは約束します。とにかく明るく、「駒田らしいね」と言われるチームを目指します。どうぞ、これからよろしくお願いします。

駒田徳広(こまだ・のりひろ)プロフィール>:高知ファイティングドッグス監督
 1962年9月14日、奈良県出身。桜井商高から80年にドラフト2位で巨人に入団。3年目の83年にNPB初のプロ初打席での満塁ホームランを放つ衝撃デビューを果たす。この年のリーグ優勝に貢献。89年には一塁手のゴールデングラブ賞を獲得(以降、一塁手では最多の10度受賞)。恐怖の7番打者として日本シリーズMVPに輝く。94年にはFA宣言をして横浜へ移籍。98年にはマシンガン打線の中軸を任され、ベストナインを受賞。チームは38年ぶりの日本一を達成する。チャンスに強く、満塁ホームランは歴代5位タイの13本を記録。00年に2000本安打を達成し、同年限りで引退。05年には新規参入した東北楽天の打撃コーチに。09年は横浜の打撃コーチ、12年からは常磐大の臨時コーチを務めた。16年より、高知の監督に就任。現役時代の通算成績は2063試合、2006安打、打率.289、195本塁打、953打点。


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