15日、ブラジルW杯アジア3次予選第5戦が北朝鮮の平壌で行われ、日本代表は北朝鮮代表と対戦した。日本は立ち上がりから北朝鮮の猛攻を受け何とかしのいでいたものの、後半5分、セットプレーからMFパク・ナムチョルに頭で押し込まれ先制点を奪われる。その後、日本も攻勢をかけるが、北朝鮮の固い守備を崩すことはできず、0−1で試合終了。アルベルト・ザッケローニ監督が就任以来続けていた不敗記録は16試合でストップした。

 22年ぶり平壌も、初勝利ならず(平壌)
北朝鮮代表 1−0 日本代表
【得点】
[北] パク・ナムチョル(50分)
 文字どおりの“完全アウェー”だった。試合前の国歌斉唱時、君が代は5万人の大ブーイングにかき消された。試合中は北朝鮮選手がボールに触るだけで大歓声が起こる。約150人の日本サポーターはスタンドの一角で軍服の職員に見張られ、国旗はもちろん、ユニホームの着用も禁じられた。そんな中、3次予選突破が決定している日本は11日のタジキスタン戦の先発から6人を入れ替え、この試合をチームの底上げに活用した。だが、北朝鮮にとってはホームでの日本戦。既に3次予選敗退が決まっていても、この試合だけは別だった。

 キックオフ直後から大声援を味方に北朝鮮は攻めまくる。1分もしないうちにロングボールに抜け出した相手に切り込まれ、シュートを許した。さらに前半6分、またしても縦に長いボールを入れられ、これをトラップしたFWチョン・テセ(ボーフム)に振り向きざまに左足でシュートを打たれる。ゴール右下の際どいコースに飛んだが、これはGK西川周作(広島)が何とかセーブした。
 その後も北朝鮮はロングボールを前線に入れ、これをテセが強靭なフィジカルを生かしてボールキープする。シンプルな攻めだが、最終ラインに高さのない日本は、このパワープレーに苦しめられた。しかし35分、これまで前線で起点になっていたテセが突然ベンチに退く。テセにアクシデントが生じた様子はなく、相手のキーマンがいなくなることで、日本のDFもやっと落ち着くことができるかと思われた。

 ところが、テセの代わりにワントップに入ったFWパク・グァンリョンが厄介だった。身長186cmの高さに加えて、当たり負けしない強さを備えた10番が最前線に入り、北朝鮮の攻撃はさらに活性化した。ロングボールをパク・グァンリョンに当てて、そのこぼれ球を狙う。日本は、慣れない人工芝のせいか、せっかくボールを拾っても中盤でのイージーなパスミスから相手のショートカウンターを受ける場面が目立った。
 40分には、右サイドの突破からニアサイドにクロスを上げられ、MFパク・ソンチョルがダイビングヘッド。これはわずかにゴール右へ外れ、助かった。さらに44分、またも右サイドを崩され、アーリークロスを入れられる。ファーサイドに流れたところにパク・ナムチョルが頭で合わせるも、ここはDF駒野友一(磐田)が体を寄せ、ボールは大きく枠を外れた。日本は防戦一方も、何とか無失点で前半を折り返した。

 しかしハーフタイムを挟んでも流れは変わらない。後半5分、とうとう均衡を破られる。ピッチ中央で与えたFKをPA内でパク・グァンリョンにヘッドでつながれ、そこへパク・ナムチョルが走り込む。頭で押し込まれ、0−1。ここまで相手の猛攻に耐えてきた日本だったが、徹底した北朝鮮のパワーサッカーに先制を許す。

 一方の日本は、前線の収めどころであるFW前田遼一(磐田)がことごとく相手の激しいプレスにつぶされ、リズムをつくれない。12分には、ゴールから約30mの地点で前田が後ろから倒されると、相手選手との小競り合いが勃発。両者にイエローカードが出されるなか、5万人が詰め掛けた金日成競技場は日本への激しいブーイングで溢れかえった。

 何とか異様なムードを振り払いたいアルベルト・ザッケローニ監督は17分、トップ下のMF中村憲剛(川崎F)に代えてDF内田篤人(シャルケ)を投入する。内田を右MF、駒野を左MFに上げた3−4−3システムへの変更だった。さらに31分には前田を下げてFWハーフナー・マイク(甲府)を送り出し、1点をもぎ取ろうと試みる。
 さらに32分、内田をファールで倒したFWチョン・イルグァンにこの日2枚目のイエローカードが出され、退場となる。攻撃的な戦術変更に加え、数的優位にも立った日本は、少しずつ北朝鮮陣内でボールを持つ時間が多くなってくる。34分には、相手の横パスをカットした内田がそのままドリブルで中央突破し、PA前から右足を一閃。GKがはじいたところに岡崎が詰めるが、これはGKに対するファールを取られた。

 日本ベンチは40分には最後の切り札として、FW李忠成(広島)を送り込む。そして迎えた43分、この試合最初にして最後の決定的な場面がやってきた。ドリブルでPA内右に侵入したMF長谷部誠(ヴォルフスブルク)が、シュートを打つと見せかけて、右前方へスルーパス。これに抜け出したハーフナーがグラウンダーで折り返したところに、李が合わせた。劇的な同点弾かと思われたが、無情にも判定はオフサイド。日本のゴールは幻となった。

 ロスタイムに入って、日本は高さのあるハーフナーへのロングボールからのこぼれ球を狙いにいく。しかし、ゴール前を固めた北朝鮮の赤い壁を崩すことができない。最後は長谷部がゴール前に放り込むが、クリアされて終了のホイッスル。過去に日本が1度も勝利したことのない“鬼門”の平壌で、ついにザッケローニ体制になって初黒星を喫した。

「90分をとおして試合を支配された。アウェーでも自分たちのサッカーをして勝たないといけない」
 試合後、DF今野泰幸(FC東京)は悔しさを口にした。11日のタジキスタン戦も結果こそ4−0だったが、決して内容で圧倒していたとは言い難い。MF岡崎慎司(シュツットガルト)は「2試合とも自分たちのリズムがつくれない場面が多かった」と課題をあげた。
 一方のザッケローニ監督は「この2連戦で3次予選突破を決められてよかった」と初の敗戦にも気持ちを切り替えた。来年6月から始まる最終予選は、さらに手強い相手が待っている。完全アウェーでの敗戦をどう次につなげるか。指揮官の次なる一手が見ものだ。

<日本代表出場メンバー>
GK
西川周作
DF
伊野波雅彦
栗原勇蔵
今野泰幸
駒野友一
MF
長谷部誠
細貝萌
岡崎慎司
中村憲剛
→内田篤人(62分)
清武弘嗣
→李忠成(85分)
FW
前田遼一
→ハーフナー・マイク(76分)