合同自主トレがスタートして2週間、ピッチャー陣は今週より本格的な投げ込みに入っています。新人も合流し、ここまで最も目立っているのは田中真澄(上宮太子高-三重中京大-トータル阪神-06ブルズ)です。トライアウトではコントロールの良さが光りましたが、実際にブルペンの投球練習を見ているとストレートのキレが素晴らしい。遠投でも、ボールにスピンがかかり、グッと伸びます。

 

 変化球はカーブ、スライダーが使えそうで、スタミナも十分。体型を含めて、西武の岸孝之のようなタイプです。現状では先発ローテーションの一角を託そうと考えています。実戦で好アピールを続ければ、NPBのスカウトに、きっと注目される右腕でしょう。

 

 BCリーグ・新潟から移籍した間曽晃平もバランスがとれた投げ方をしています。BCリーグでは2年連続最多勝に輝いた実績があり、投球術はピカイチ。ただ、28歳でNPBへのラストチャンスにかけるには、もうひと押しが求められます。

 

 それは何か。僕はストレートの球速アップとみています。140キロ台前半のストレートを、より磨けば持ち味の投球術も光るでしょう。そのためには先発ではなく、短いイニングの方が適しているかもしれません。本人は「任されたところでやる」と話していますから、一番ラストを締めくくる役割もおもしろいのでは、と感じています。

 

 また、ドラフト1位で指名した石田哲也(日大藤沢高-日大(準硬式)-06ブルズ)は香川に来て、フォーム修正に着手しています。彼の良さは188センチと恵まれた体格から投げ下ろすストレート。しかし、上体に頼ったフォームのため、バランスが良くありません。下半身主導で投げれば、もっとボールに力が伝わるでしょう。

 

 大学では準硬式部だったそうで、硬式でのピッチャーとしては、まだこれから。ピッチャーでは実質、硬式1年でNPB入りした松本直晃(埼玉西武)のように、どんどん投げて伸びていってほしいと期待しています。

 

 もちろん、既存の選手も負けてはいません。4年目の竹田隼人はテイクバックを小さくした取り組みが実を結びそうです。後ろで小さく、前で大きく放るスタイルにしたことで、バッターからはボールが見にくく、かつ回転を感じるのではないでしょうか。フォームが固まれば、球速もさらにアップするとみています。今季は先発の中心としてチームを引っ張ってほしいものです。

 

 現時点でピッチャーの登録選手は6人ですが、今後、外国人を左右1枚ずつ加える予定になっています。右腕の方は日本の独立リーグでも投げたことがあり、この冬は

オーストラリアのリーグで活躍していました。もうひとりの左腕は海外トライアウトで発掘した選手。映像で観た限り、クレバーなピッチングをしていました。勝負どころのワンポイントなどで使えそうです。

 

 故障のため、現在は練習生契約の田村雅樹も開幕には間に合うかたちで状態を上げてくるでしょう。またサイド右腕の原田宥希も、何度かここで取り上げたように変則から繰り出す球の力は又吉克樹(中日)級。再登録に向けて必ず奮起してくれるはずです。

 

 昨季からはキャッチャー陣も赤松幸輔がオリックス入りし、有山裕太が退団したため、一新されています。開幕までにバッテリーでいかにコンビネーションを高めるかも重要なポイントです。当面の軸はBCリーグ・石川からやってきた白橋賢斗になるでしょうが、高卒新人の古川大珠(おかやま山陽高)もバッティングがよく、スローイングも非凡なものを持っています。徳島から来た高島優大との3人でポジションを競い、バッテリーでレベルアップしてほしいですね。

 

 今回の自主トレには、昨季、テキサス・レンジャーズとマイナー契約を結んでいた冨田康祐が練習参加してくれました。冬はオーストラリアのリーグで投げており、体は既にできあがっている状態。打撃投手としてバッターの練習相手を務めてくれました。

 

 米国に行き、彼はモデルチェンジをしています。香川や横浜DeNA時代のように球威で押すだけでなく、ボールを少しずつ動かし、ストライクゾーンの両サイドをうまく活用しているのです。パワー揃いの強打者を打ち取るには、それが生き残り策だと考えたのでしょう。この変遷は速球派からメジャー経験を経て技巧派に転じた東京ヤクルト時代の先輩、木田優夫さんに似ています。

 

 今季はPL学園高時代の同期、前田健太が鳴り物入りでロサンゼルス・ドジャースにポスティング移籍しました。彼とは対照的な道のりですが、ぜひ新たな所属球団を見つけて、同じMLBの舞台で投げ合ってほしいと願っています。

 

 昨季はピッチャーのやりくりが苦しく、夏場に疲労で失速し、それが年間優勝を逃した一因になりました。今季は現段階では、どのピッチャーもメドが立ち、先発、中継ぎ、抑えの割り振りはうまくいきそうです。1年間、故障には気をつけさせつつ、能力を発揮する場を見極めて全員を戦力として回すのが、コーチの大事な仕事。独立リーグ日本一とNPB指名を勝ち取れるよう、しっかり選手をサポートしていきます。秋には、こちらの想像を上回る成長を遂げた選手がたくさん出てくるのを楽しみにしています。

 

伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)


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