(写真:砂浜を乗るのは難しく、ほとんどの選手が担いでいく)

(写真:砂浜を乗るのは難しく、ほとんどの選手が担いでいく)

 自転車の世界でこのところ急速に盛り上がっているのが「シクロクロス」という種目。これは不整地を自転車で走る競技で、その点はMTBと似ている。しかし、舗装された道も走ったり、自転車を担いだりすることもあり、使う機材はロードレーサーに近い。つまりロードレースとMTBの合体型と言える。実は、その歴史はMTBよりもかなり古く、むしろシクロクロスに刺激されてMTBが生まれたというのが適当だが、日本では日の目を浴びることはなかった。そんな「シクロクロス」が、毎年東京の一大観光地であるお台場で開催されているのをご存知だろうか?

 

 元々、フランスやベルギーで自転車選手の冬場の練習として生まれたこの競技は、冬に使われなくなった畑や、牧草地で行われていた。だから現在も山の中というより、郊外の空き地のような場所で周回コースを作り開催されることが多い。それ故にMTBほど広範囲な場所は必要ないのだが、それでも1周2~3km程度のコースを用意しなければならないのでお台場で開催するというのは難しい。それを敢えて開催し、今年で5年目を迎えた。

 

(写真:コース上には障害物が設けられている)

(写真:コース上には障害物が設けられている)

「本場の欧州では熱狂的な人気、そしてアメリカでも盛り上がっているシクロクロスをなんとか日本でも盛り上げたい」。そんな思いを持っていたのが大会主催者の棈木亮二氏。当時、ラスベガスで競技としてだけではなく、ショー的な要素も盛り込んで盛り上がった大会を見た棈木氏は“これこそが日本に必要だ”と思ったという。それまでも日本でシクロクロス自体は開催されていたが、人里離れていた場所が多く、一部の愛好者が集まり行っているというものであった。当然知り合い以外に観戦者もいないし、参加者もそんなものだと思っていた。これでは一般に広がるわけもないので、人目につくところでの開催が必要であるという発想になったのだ。

 

 紆余曲折あり、開催許可は取り付けても「お台場海浜公園」という限られた場所で、ちゃんとした競技が成立するのか。苦労に苦労が重ねられ、さらに年々改良を加えてコースができ上がった。地形上大きなアップダウンがないとか、1周の距離が長くとれないなどの弱点はあるものの、「東京シクロクロスのコース」として認識されるまでになった。

 

 それとともに大変なのは、一般客との交通整理。場所柄多くの人が行き交う中での競技。参加者と観客のコントロールも大変で、最終的には人海戦術となるのだ。あちこちに人を配置し、整理、警備するのが必須となり、人はコストにつながり、設営物と同時に大会収支を苦しめる原因にもなる。

 

「継続は力なり」で認知度UP

 

 それでも、棈木氏の熱意に多くのシクロクロス関係者が協力し、年々盛り上がりを見せている。雪の年、雨の年、風の年と気象条件にも苦しめられながらも、参加者も観客数も増え続け、なんと今年は2日間で2万人を超える人を集めるまでになった。僕も第1回大会から携わっているのだが、ここ数年の盛り上がりは目を見張るものがある。まさに「継続は力なり」ということか。

 

 この東京シクロクロスの盛り上がりに同調するように、メディアでも取り上げられることが増えてきた。もちろん自転車専門誌中心での話だが、ようやくシクロクロスが取り上げられるようになった。逆を言えば、それまでは自転車専門誌にさえも取り上げられることの少ないマイナースポーツだったということでもあるが……。そして、他の場所でも元気のいい大会が開催されるようになり、さらに棈木氏も千葉で新規大会をスタートするなど業界の広がりは目を見張るものがある。その引き金は間違いなくお台場で開催している「シクロクロス東京」だった。

 

(写真:全日本ジュニア王者の織田選手などレベルの高い選手は乗ったままでクリアする)

(写真:全日本ジュニア王者の織田選手などレベルの高い選手は乗ったままでクリアする)

 物事の流れを変える時には、なにかの1つのきっかけがあることが多い。それまでに世の中の流れや風潮があったとしても、具体的な起因となる事象がないと火が付かない。マラソンブームにおける「東京マラソン」のようなものだ。その点でこの大会の果たしている役割は大きいといえるだろう。

 

「シクロクロスは同じコースを何度も走るので観客も見やすい。それでいて、自然条件の中でコース条件がどんどん変化していてその見極め、判断が勝負のポイント。だから観客にも選手にも面白いんだ」とは、今年優勝した全米チャンピオンでもあるジェレミー・パワーズの言葉だ。確かに他のサイクルスポーツと違う魅力がある。

 

 来年も、お台場のビーチを自転車が走り抜けるのを見るのが楽しみだ。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。著本に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)などがある。

>>白戸太朗オフィシャルサイト>>株式会社アスロニア ホームページ
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