地域密着をうたわないJリーグのクラブはない。ホームタウンを元気にしたい、勇気を与えたい、と口にする選手もたくさんいる。

 

 だが、こんなことを宣言するクラブはなかった。

 

「いわき市を東北一の都市にする!」

 

 高らかにぶち上げたのは、昨年まで湘南ベルマーレの社長を務めていた大倉智さんである。低迷するチームを見事に立て直した手腕に注目が集まっていた彼は、なんと福島県リーグに所属するまったく無名のチーム「いわきFC」の代表へと転身したのである。

 

 もちろん、徒手空拳で飛び込んだわけではない。近年急成長を遂げているスポーツメーカー“アンダー・アーマー”とタッグを組んだ上での大挑戦だった。

 

 世界的には到底財源的な規模が大きいとはいえないJリーグだが、それでも、政令指定都市ではない、小さな街のクラブがJ1の頂点に立つことは考えにくい。地方のクラブは、資金調達の面で大きなハンデを背負っているからである。

 

 ところが「いわきFC」は最初からこの難題をクリアした形でスタートを切った。それどころか、母体となる“アンダー・アーマー”の安田社長は「将来的には年間予算100億円規模のクラブを目指す」とまで宣言している。現在であれば、浦和プラス小さなクラブ2~3つぐらいは賄えてしまうほどの規模である。

 

 だが、何といっても画期的なのは自分たちのホームタウンを東北一にしようという発想である。

 

 洋の東西を問わず、大都市に人とカネが集まるのは世の常だが、日本の場合、他国と比べても東京への一極集中が甚だしい印象がある。

 

 以前から、わたしには夢想していることがある。もしプロ野球で9連覇を達成したのが巨人ではなく、阪神や、中日や、あるいは西鉄であったら、それでも東京への一極集中はいまと変わらなかっただろうか――。

 

 ロンドンは英国一の大都市だが、一方でマンチェスターやリバプールも活気に溢れている。ミュンヘンの熱気はベルリンに劣らず、バルセロナの求心力がマドリードに劣ることもない。そして、ことサッカーに関していえば、多くの国で地方のチームが首都のチームを圧倒している。

 

 近年、訪れるたびに驚かされるのは博多の活気である。新幹線の開業など、多くの要因があるのだろうが、わたしには、王朝を築きつつあるホークスの存在も無関係とは思えない。言い方を変えれば、ホークスによって、博多は九州一の都市としての立場を盤石なものにしている。

 

 幸か不幸か、いまの東北に日本をリードするJのクラブはない。ガンバの新スタジアムのような魅力的な施設もない。すでに専用スタジアムの建設を計画しているいわきFCが、まずチームとして東北一となり、いわき市を東北一の都市へと牽引していく可能性は十分にある。

 

<この原稿は16年2月18日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから