創成期のJリーグは引退寸前のロートルに大金をつぎ込み、欧州のメディアから冷笑されることもあった。ただ、先例がなかったわけではない。70年代後半の北米サッカーリーグ(NASL)などは、Jリーグよりはるかに大きなスケールで大物を買いあさっていた。

 

 だが、最近の中国がやっている選手獲得は、いささか常軌を逸したレベルにある。なにせ、ウクライナのシャフタール・ドネツクでプレーしていたテイシェイラというブラジル人選手を、江蘇蘇寧は5000万ユーロ(約65億円)の移籍金を払って獲得した。これは、この冬ブンデスリーガで飛び交った移籍金すべてを足したのよりも大きな金額である。

 

 いまのところ、中国の動きに対する欧州からの大きな反発は起きていない。とはいえ、市場の相場を破壊するような移籍が続けば、いずれ結束して対策に乗り出してくるだろう。F1しかり。スキーしかり。日本人が勝つようになると、それを引きずり降ろそうとしてきた彼らが、傍若無人な新参者の振る舞いを傍観し続けるとは考えにくい。

 

 もっとも、個人的には中国の爆買い、もう少し続いてくれればと思っている。ACLがある以上、日本は嫌でも中国と戦わざるをえず、そこで勝つために絞る知恵は大きな財産となっていくはずだからである。長年低い水準で据え置かれているJリーガーの所得に、外圧による変化が生じることも期待したい。

 

 昨年のクラブW杯では、広州恒大がスポンサーに無断で胸のロゴを変更するという騒動があった。かつてのJリーグもそうだったが、バブルが続いているうちは、クラブも選手も傲慢になる。失ってみなければスポンサーのありがたみがわからないのは、洋の東西を問わないらしい。

 

 それとまったく対照的だったのが、先週末のサンフレッチェだった。

 

 森保監督がそうだった。佐藤寿人もそうだった。勝利者としてインタビューを受けた2人は、いずれも「富士ゼロックス・スーパーカップ」と冠スポンサーの名称を“フルネーム”で口にしたのである。

 

 ちなみに当日、試合結果を報じるNHKは「スーパーカップ」とだけ伝えた。国営放送の冠スポンサーに対する態度は、昔もいまも変わっていない。

 

 だが、現場の意識は変わりつつある。そして、そうした変化を促したのは、長く続いた財政的な苦境である。

 

 わたしが富士ゼロックスの社員であれば、正式な名称を口にしてくれた選手や監督に、強い印象を受けたことだろう。2人のコメントを耳にし、「このチームならばスポンサーのやりがいがある」と考える企業が出てきてもおかしくない。NASLもJリーグも、我が世の春は続かなかった。バブルはいずれ、必ず弾ける。けれども、弾けた泡が、新たな種にもなることもある。

 

 

<この原稿は16年2月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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