今年の阪神のスローガンは金本知憲新監督が打ち出した「超変革」です。僕は沖縄で行われている春季キャンプを視察に行き、その言葉通り変化の兆しが見えました。
春季キャンプでまず感じたことは、チームの雰囲気が明るかったことです。キャプテンの鳥谷敬を中心に声がよく出ていました。阪神は去年まで黙々と練習をしているイメージを持っていましたが、今年は一軍に若手が多かったということもあり、全体的に活気がありました。
チームの雰囲を変えたのは紛れもなく指揮官でしょう。金本監督は僕と同い年なので良く知っていますが、元々人をいじることが好きで明るい性格です。若手だけでなくベテランにも分け隔てなく声をかけて、時にはいじっている姿が印象的でした。
金本監督は「まだチーム全体を把握できていない。まずは色々試してみる」と話していました。昨年まで外部からチームを見ていて自分だったらどうするかという考えがあったと思うので、客観的に感じていたものをチーム作りに生かして欲しいです。
現状のチームに1つ苦言を呈すとしたら、選手のアピール度の低さです。声は出ていましたが、選手たちは“失敗しないように”と、プレーが慎重になっていました。もっとアグレッシブさを出すべきでしょう。今季は「超改革」と謳っているので、選手のメンタル面での変化にも期待したいですね。
助っ人外国人に求めること
チーム編成も大きく変わりました。昨年までチームの中心にいた2年連続セーブ王の呉昇桓と主軸のマット・マートンが退団したことで、新たな外国人選手が3選手加わりました。投手はラファエル・ドリスとマルコス・マテオ、野手はマット・ヘイグ。彼らに求められるのは「日本の野球に慣れること」です。
ヘイグはマートンの穴を埋める主砲として期待されていますが、見ていて日本に順応するには少し時間がかかる気がします。独特なフォームをしていて、上半身でタイミングを取るタイプです。自分の打てるポイントにバットをスムーズに出すことができればいいですが、構えが大きいこともあって最初は内角を狙われ、差し込まれる場面も目立つかもしれませんね。
呉昇桓に代わる守護神候補のドリスとマテオの課題は日本人の粘り強いバッティングに我慢できるかどうかです。新外国人は打ち取れないと、力勝負になる傾向があります。その時のボールがいいコースに決まればいいですが、中途半端な高さにいくと狙われます。そういった意味では、ドリスは球種が多くて縦の変化球を持つので、日本の野球に対応するのは早いと思います。
リリーフ陣にはマテオとドリスに加えて中日から高橋聡文が入りました。2年連続最優秀中継ぎ投手を獲得した福原忍の次にマテオかドリスだと右投手のリレーになりますが、これで間に一枚、左の高橋を使えるようになります。継投策の選択肢が広がったことはチームにとって大きいですね。
10年ぶりの優勝のカギ
先発陣には藤浪晋太郎、ランディ・メッセンジャー、能見篤史らに4年ぶりに阪神に復帰した藤川球児が加わったので、投手力は盤石とみていいと思います。ですから今季のチームの鍵を握るのは「打線」です。
阪神にはドカーンと長打を放つ選手が今ひとつ見当たりません。今年は細かい野球というよりも、積極的な攻撃スタイルが求められます。昨年、セ・リーグを制した東京ヤクルトのように、2番バッターが打つような打線に変わらなければなりません。
金本監督は現役時代に、大きな一発を狙うのではなく“強く広く”というバッティングスタイルでした。打線でいかに点数を取れるかが、今季の成績を左右するため、チーム全体として金本監督のような意識で攻撃していくのでしょう。
優勝を目指すのであれば、年齢的にもベテランの域に達している鳥谷や来日3年目を迎えるマウロ・ゴメスを中心にキャリアハイを残す選手たちが現れることです。チーム内でリーグの打撃タイトルを争うほどでないと、打線的にも苦しくなります。
プロ野球開幕まで残り1カ月。阪神はこれまで大きな怪我をした選手もいなく、チーム状態は非常にいいです。金本監督のもと、チームが「超変革」することに期待しています。
佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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