プロ野球の世界に憧れ、しかしプロにはなれなかった若者たちが集まるクラブチームを取材した時の話である。

 

 プロになれた者となれなかった者。その違いはどこにあるのか。プロ野球の経験者でもあるコーチから聞いた答えが、強く印象に残っている。

 

「ドラフトの下位で入った子とここの子なら、差はほとんどないと思います。ただ、入った瞬間から、どんどんと差はついていく」

 

 プロの方が高度な練習をしているから、ではない。

 

「プロに入った子は、寮のメシを食ってどんどん身体を大きくしていく。でも、ここでやってる子には、それだけの食費がないんです」

 

 いま大学ラグビー界では帝京大が黄金時代を迎えている。社会人とも好勝負を演じるようになった彼らを倒すために、他の大学はどうしたらいいのか。あるラグビー関係者からは、いたってシンプルな答えが帰ってきた。

 

「わたしだったら、まず帝京の選手たちがとっているより多くのカロリーを、自分のところの選手にとらせるようにしますね」

 

 もちろん、カロリーを多くとったところで、選手たちの実力が簡単にアップするはずもない。ただ、帝京大の強さには理由があり、自分たちも対抗する手段を持っていると自覚することで、いまある差を埋める最初の一歩となり、いつかはアドバンテージにもなりうる――とのことだった。

 

 わたしの高校の後輩に、息子が高校で野球をやっていた、という人間がいる。甲子園出場はまず無理にしても、県のベスト8ぐらいならば可能性はある、という公立高だったそうである。

 

「そこの監督が、技術で私立の学校に勝つのは無理だから、とにかく身体を大きくしよう。身体を大きくするために、食べて食べて食べまくる合宿をやろうって言いだしたんです」

 

 いまのところ、その学校が甲子園に出場したという話は聞いていないが、しかし、食べて身体を大きくしようという合宿は、後輩の息子が卒業したいまも続けられているという。そして、後輩の息子は、その合宿で爆発的に身体が大きくなったのだという。

 

 サッカーは、むろん野球やラグビーとは違う。ただ、高校サッカーに出場する選手たちの華奢な身体をみていると、日本のサッカー界は、選手の肉体を大きくすることに無頓着すぎたのでは、という気がしてくる。中田英寿さんは外国人を競り合いではね飛ばすことに喜びを見いだしていたが、以来、そういう日本人選手には出会えていない。

 

 柔よく剛を制すという言葉を愛する日本人は多いが、わたしは、剛よく柔を制すサッカーがあってもいい、と思う。ひ弱なテクニシャンを、鍛え上げられた肉体で、蹂躙してしまえ、という考え方があってもいい。その際、手をつけるべきは、まず食である。

 

<この原稿は16年3月24日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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