2011年11月１日、京セラドーム大阪で開催された都市対抗野球大会・決勝、初めて黒獅子旗を手にしたのはJR東日本だ。その５日前、同チームからは３名の選手がプロへの道を切り開いていた。そのうちの一人、十亀剣は埼玉西武から１位で指名を受けた。十亀は愛工大名電高出身。同校からはイチロー（マリナーズ）をはじめ、数多くのプロが誕生している。だが、その全てが高校からストレートでのプロ入り。大学、社会人を経由してというパターンは一人もいなかった。「オマエがその第１号となれ」。高校の恩師からそう言われていたという十亀。彼のプロ入りは後輩への大きなメッセージともなったに違いない。果たして、彼はどんな野球人生を歩み、成長を遂げてきたのか。
―― ドラフト当日、自分の名前が呼ばれた時の気持ちは？
十亀： マネージャーと一緒にテレビで会議の模様を観ていたんですけど、正直そんなに早く呼ばれるとは思っていなかったんです。だから呼ばれた時は、心の準備ができていなくて、「えっ!?」と驚きの方が大きかったです。それだけ即戦力ということで期待されているということだと思うので、新人王を狙えるくらい１年目からしっかりと成績を残さないといけないと思っています。
―― 西武といえば、同じ社会人出身の牧田和久投手が今年、新人王に輝いた。
十亀： 社会人時代、牧田さんはテンポの速さが特徴のピッチャーだったので、プロに入って、どんなふうに変わられるのか、今年１年間、すごく興味深く見ていたんです。そしたら、プロでも自分のペースを崩さずに投げているのを見て、「あ、自分もああいうふうにできればいいんだ」と思いました。僕自身は球の勢いでしか抑えられないタイプなので、テンポよく、ポンポンとストライクを取っていきたいです。
―― 今後の課題は？
十亀： 持ち球は結構あるのですが、試合ではカウントを取るのも勝負球も、真っ直ぐが主体なんです。だから変化球を使って緩急を使えるようになれば、もっとピッチングの幅を広げることができるかなと。それと、三振が取れる球があるわけではないので、プロではもっと細かいコントロールを身につけなければいけないと思っています。
―― ピッチングで重要視していることは？
十亀： リリースを一番意識してます。できるだけ腕全体をしならせるように、最後にグッと押すようにするんです。そのためにはリリースにもっていくまでの体の動きが大事になってくるんですけど、僕は右ヒザの割りと右ヒジの動きに注意しています。体重移動の際、体が前に突っ込みやすいので、右ヒザが中に入らずに、できるだけ残すようにしているんです。それと、できるだけコンパクトにリリースまでもっていけるよう、右ヒジの動きが大きくならないようにしています。この点を修正できたのが、いい成績を残せた要因になったのかなと思っています。
心身ともに成長を感じた社会人１年目 十亀自身、最も成長を感じたのは社会人に入って１年目だという。先輩のケガによって芽生えたエースとしての自覚。そしてそれまでとは違うピッチングに新たな可能性を見出した。それがプロへの道を切り開いたことは言うまでもない。
―― 社会人２年間で最も成長したことは？
十亀： 大学までは球の速さを求めて上半身ばかり鍛えていたんですけど、社会人に入って下半身を鍛えることによって、コントロールがよくなりました。でも、一番はやっぱり気持ちの部分だと思います。入社当初は、斉藤貴志さんという大エースがいたので、僕自身は斉藤さんの登板の合間、合間に投げられればいい、くらいにしか思っていませんでした。でも、シーズン途中で斉藤さんがケガをしてしまった。それで「ここはオレがやらなくちゃ」という気持ちになったんです。というのも、斉藤さんを越えるチャンスなだと思ったんです。
―― ピッチング自身に変化を感じたのは？
十亀： １年目の秋の関東リーグでのJFE東日本戦でのピッチングです。その試合は完投してチームも勝ったんですけど、内容的にも「自分もこういうピッチングができるんだな」と思えた試合でした。それまで僕は調子が悪いと、結果が残せていなかったんです。でも、その日は調子が悪いなりに、最後まで投げ切って勝つことができました。
―― その要因は？
十亀： キャッチャーのおかげなんです。一番の武器である直球が走っていなくて、「今日は確実に調子が悪い」と伝えたんです。そしたら、「大丈夫。今日は真っ直ぐじゃなくて、シュート主体でいこう」と。実際、その日はシュートがキレていて、ボテボテのゴロで仕留めることができました。自分には真っ直ぐしかないと思っていたんですけど、真っ直ぐが悪くても、こういうかわすピッチングができるんだということがわかったのは、その後の自分には大きかったですね。
―― プロでの目標は？
十亀： 先発、中継ぎ、抑えと、どこで使われるかはわかりませんが、どこででもその穴をきちんと埋めることのできる、勝てるピッチャーになりたいです。
―― 対戦したいバッターは？
十亀： 高校の先輩の山崎武司さんや、大学の先輩の村田修一さん、長野久義さん（ともに巨人）と、ぜひ対戦してみたいです。皆さん、パワーがあって怖いバッターですけど、僕の持ち味であるインコースで攻めることができたらなと。とにかく気持ちでは負けないようにしたいです。
東尾修、渡辺久信、潮崎哲也、松坂大輔（レッドソックス）、涌井秀章。“投手王国”を築いてきた歴代のエースと同じ１位指名を受けたその重責は、決して小さくはない。だが、十亀には自分を見失わない強さが既にある。開幕一軍入りを当然の目標としている十亀。果たして同じ社会人出身の牧田に続いて、復活を目指すチームの屋台骨となれるか。
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十亀剣（とがめ・けん）プロフィール＞
1987年11月７日、愛知県生まれ。小学４年から野球を始め、豊田シニアに所属していた中学３年時には全国大会に出場した。名門・愛工大名電高では３年春にセンバツで全国制覇を達成。日大時代は未勝利に終わるも、JR東日本入社後は投手の柱に成長し、２年連続の都市対抗出場に大きく貢献した。183センチ、82キロ。右投右打。
（聞き手・斎藤寿子）
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