8日、競泳のリオデジャネイロ五輪日本代表選考会を兼ねた「第92回日本選手権水泳競技大会」5日目が東京辰巳国際水泳場で行われた。男子200メートル平泳ぎ決勝は小関也朱篤(ミキハウス)が2分8秒14で連覇を達成した。小関は2分9秒45で2位に入った渡辺一平(早稲田大学)と共に派遣標準記録(2分9秒54)を突破し、初の五輪代表を決めた。5大会連続の五輪出場を目指した北島康介(日本コカ・コーラ)は2分9秒96で5位に終わり、リオ五輪代表入りを逃した。男子200メートルバタフライ決勝は瀬戸大也(JSS毛呂山)が1分54秒14で3連覇を成し遂げて、2枚目の五輪切符を手にした。0秒07差で2位の坂井聖人(早稲田大)も派遣標準記録(1分55秒39)を突破しており、初の五輪代表に入った。

 

 100メートル自由形決勝は、男子の中村克(イトマン東進)が48秒25、女子の内田美希(東洋大)が53秒88の日本新記録をマークしたが、個人での派遣標準記録をクリアできなかった。中村は2位の塩浦慎理(イトマン東進)、3位の小長谷研二(岐阜西SC)、4位の古賀淳也(第一三共)と、内田は2位の池江璃花子(ルネサンス亀戸)、3位の松本弥生(ミキハウス)、4位の山口美咲(イトマン)の合計タイムが400メートルフリーリレーの派遣標準記録を突破したため、男女ともに上位4人が五輪代表入りを果たした。

 

 ヒーローとの別れと旅立ち

 

 桜咲く季節に、夢は散った。競泳界を牽引してきた北島の最後の挑戦が幕を閉じた。

 

 5日の男子100メートル平泳ぎでは準決勝で派遣標準記録を突破するタイムで1位通過を果たしながら、決勝でタイムを落とした。順位が2位のためメドレーリレーのチャンスもない。5大会連続の五輪は200メートルの結果如何にかかっていた。

 

 赤いジャージに赤いスイミングキャップを被った北島。燃える闘志をコスチュームに込めているようにも映った。「北島康介」の名がコールされ、入場すると一際大きな歓声が飛んだ。北島はそれに手を挙げて応える。落ち着いた見える表情は、覚悟の表れか。

 

 号砲が鳴ると、第3レーンの北島は勢いよく飛び出した。だが、それ以上に先攻で抜け出したのが小関だ。「レースプランは考えていたが、飛び込んだ時に意識が飛んだ」という小関は、ガンガン飛ばす。50メートルのターンは28秒52と、世界記録を上回るペースで泳いだ。北島も0秒43差の2番手。彼もまた世界記録より速いペースで泳いでいた。

 

 長身で大きく泳ぐ小関がなおも先攻する。追いかける北島も攻めの姿勢を貫く。100メートルのターンは小関が1分0秒94、北島が1分1秒76。小関の世界新ペースは変わらず、北島はそこから少し遅れた。逃げる小関は、その差を広げるべく泳ぐ。150メートルのターン。ラストの50メートルに世界への扉を開けに向かっていった。最後まで先頭譲ることなく泳ぎ切った。平泳ぎの新エースが、力強い泳ぎで初の五輪切符をもぎ取った。

 

 一方、北島は2位に入った渡辺らにかわされ、5位に終わった。レース後、北島は「悔しさが残りますが、割と清々しい。最後まで自分の攻めのレースができていたと思う。結果は良くないけど、オリンピックに行きたいという気持ちを持ってやれた。悔しいけどやり切った感が今はいっぱいです」とコメントした。

 

 アテネ五輪で100メートル、200メートルの2冠を達成。北京五輪では日本人初の2種目連覇を成し遂げた。五輪で獲得したメダルは金4個を含む7個。国際大会で数々の栄光を掴み、世界記録を何度も更新した日本スポーツ界のヒーローも、ここ2年は代表入りを逃していた。

 

「引退」の2文字が頭を過ることもあったはずだ。「オリンピックしか残されていた道はなかった。その中でどうしても行きたいという気持ちが自分を奮い立たせた」。平井伯昌コーチとのタッグで、五輪を目指した。だが、その想いは叶わなかった。北島は「幸せ者ですけど、やっぱり最後は平井先生とオリンピックに行きたかったというのが本音」と口にした。

 

「自信を持って次のステージに行きたいと思います」。北島は第一線からは退く意向を明らかにした。一時代を築いたヒーローが、戦場から去る。どこか晴れやかな表情からは、やり切ったという思いがヒシヒシと伝わってくる。その潔く散る姿は美しいとすら感じさせるものだった。

 

 5日目の決勝結果は次の通り。

 

<男子100メートル自由形・決勝>

1位 中村克(イトマン東進) 48秒25 ※日本新

2位 塩浦慎理(イトマン東進) 48秒35

3位 小長谷研二(岐阜西SC) 49秒07

4位 古賀淳也(第一三共) 49秒25

 

<男子200メートルバタフライ・決勝>

1位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 1分54秒14

2位 坂井聖人(早稲田大) 1分54秒21

3位 幌村尚(ナイスSP) 1分55秒98

 

<男子200メートル平泳ぎ・決勝>

1位 小関也朱篤(ミキハウス) 2分8秒14

2位 渡辺一平(早稲田大) 2分9秒45

3位 渡辺隼斗(自衛隊) 2分9秒91

 

<女子100メートル自由形・決勝>

1位 内田美希(東洋大) 53秒88 ※日本新

2位 池江璃花子(ルネサンス亀戸) 54秒06

3位 松本弥生(ミキハウス) 54秒43

4位 山口美咲(イトマン) 54秒99

 

※選手名の太字は五輪代表に内定。中村、塩浦、小長谷、古賀、内田、池江、松本、山口は400メートルフリーリレーの代表。

 

(文/杉浦泰介)