9日、競泳のリオデジャネイロ五輪日本代表選考会を兼ねた「第92回日本選手権水泳競技大会」6日目が東京辰巳国際水泳場で行われた。男子200メートル個人メドレー決勝は萩野公介(東洋大)が1分55秒07の日本新記録で5連覇した。萩野は今大会3冠を達成。1分57秒57で2位の藤森太将(ミキハウス)と共に派遣標準記録(1分58秒02)を突破し、五輪代表を決めた。400メートル個人メドレー、200メートルバタフライで代表入りを決めた瀬戸大也(JSS毛呂山)は3位に終わった。女子200メートル平泳ぎ決勝は金藤理絵(Jaked)が2分19秒65で日本記録を更新。3年ぶり3度目の優勝を果たし、派遣標準記録(2分23秒21)をクリアした。2位に入った渡部香生子(JSS立石)とリオ五輪五輪代表となった。

 

 男子200メートル背泳ぎは入江陵介(イトマン東進)が制し、2位の金子雅紀(YURAS)と派遣標準記録(1分56秒79)を突破。2人揃ってリオ行きの切符を手にした。女子800メートル自由形は高橋美帆(ミキハウス)が初優勝を収めたが、派遣標準記録(8分25秒86)には届かなった。高橋は400メートル個人メドレーに続く2種目目の代表入りはならなかった。

 

 トビウオジャパンを引っ張る“コウスケ”

 

 “コウスケ”が去ったプールで、存在感を見せつけたのが、もう1人の“コウスケ”だった。萩野が200メートル個人メドレーを日本新で制した。

 

 第1泳法のバタフライから飛ばし、瀬戸や藤森らライバルたちからリードを奪った。背泳ぎ、平泳ぎでも自らの日本記録を上回るペースで進み、ラストの自由形もまとめて200メートルを泳ぎ切った。2位以下に2秒以上の差をつける圧勝。1分55秒07で日本新記録をマークした。

 

「今大会初めて自己ベスト。素直に喜びたい」。 昨年は4冠達成も1種目も出なかった自己新がついに出た。1分55秒07は今季世界最高、ライアン・ロクテ(米国)とマイケル・フェルプス(米国)に次ぐ歴代3位の好記録だ。ロンドン五輪や昨年の世界選手権の優勝タイムより速いが、本人は「まだまだこんなもんじゃない。リオで戦うためにも、もっともっと実力つけて頑張ります」と上を見ている。

 

 前日に“チーム平井”の北島康介(日本コカ・コーラ)が引退を表明した。ラストレースとなった200メートル平泳ぎ決勝をスタンドから見守った萩野は、その積極的な姿勢に心を打たれた。「自分も胸にくるものがありました。絶対に北島さんの分まで、このレースを含めて、これから日本競泳を全力でやり切ってやるという強い気持ちを持ちます」。これからのトビウオジャパンを牽引していくことを誓った。

 

 日本最速の意地

 

 女子200メートル平泳ぎは、日本記録保持者の金藤が3年ぶりに頂点に立った。

 

 決勝には金藤に加え、100メートル平泳ぎで五輪代表入りを決めた渡部、鈴木聡美(ミキハウス)が残った。渡部は200メートル平泳ぎで、昨年の世界選手権金メダリスト、鈴木はロンドン五輪同種目の銀メダリストである。その他にも200メートル個人メドレーの今井月(豊川高)、400メートル個人メドレーの清水咲子(ミキハウス)も顔を揃えた。

 

 後半型の金藤だが、序盤から飛ばした。入りの50メートルは32秒54。前半型の鈴木を抑え、青木玲緒樹(東洋大)に次ぐ2番手につけた。金藤は青木をかわして先頭に立つと、最後まで譲らなかった。100メートルのターンは1分7秒93で、自らの持つ日本記録よりも0秒62速いペースで泳ぐ。

 

 ここからが得意の後半。金藤の勢いは衰えることはなかった。150メートルのターンでは身体ひとつ分は突き放した。1分43秒76と50メートルのラップは35秒83で、ラストの50メートルも35秒台で締めくくった。自らの日本記録を0秒39更新した。フィニッシュタイム2分19秒65は今季世界最高だ。2位のユリア・エフィモア(ロシア)よりも1秒76速い好記録だ。世界歴代で見ても、2分19秒台は5人しかいない。リオ五輪での優勝候補に躍り出たと言ってもいいだろう。

 

「タイムもうれしいのですが、たくさんの人たちに応援してもらえて、レースの前から泣きそうだった」と金藤。レース後のインタビューでは感極まった。4年前のロンドン五輪代表選考会では敗れ、北京五輪に続く2大会連続出場を逃していた。金藤は日本最速を証明し、2大会ぶりの五輪出場を決めた。次は世界最速へと視線を向ける。「今度はしっかりオリンピックの舞台でもありのままの自分で、世界記録を狙いたいと思います」。若手の台頭が目立つ大会だが、27歳のベテランも意地を見せた。

 

 6日目の決勝結果は次の通り。

 

<男子200メートル背泳ぎ・決勝>

1位 入江陵介(イトマン東進) 1分56秒30

2位 金子雅紀(YURAS) 1分56秒52

3位 砂間敬太(イトマン) 1分56秒76

 

<男子200メートル個人メドレー・決勝>

1位 萩野公介(東洋大) 1分55秒07 ※日本新

2位 藤森太将(ミキハウス) 1分57秒57

3位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 1分58秒30

 

<女子200メートル平泳ぎ・決勝>

1位 金藤理絵(Jaked) 2分19秒65 ※日本新

2位 渡部香生子(JSS立石) 2分23秒54

3位 今井月(豊川高) 2分24秒29

 

<女子800メートル自由形・決勝>

1位 高橋美帆(ミキハウス) 8分36秒84

2位 地田麻未(ミズノ) 8分37秒08

3位 和田麻里(中京大) 8分39秒08

 

※選手名の太字は五輪代表に内定。

 

(文/杉浦泰介)