高校卒業後、独立リーグのBCリーグ、新潟アルビレックスBCに入団した渡辺貴洋。早くも1年目で目標だったNPBへの道を切り拓いた19歳のサウスポーだ。まだあどけない表情とは裏腹に、「ほとんど緊張しない」とマウンド度胸は抜群。独特のフォームで打者を翻弄する渡辺の最大の魅力は荒削りだからこそ秘められた可能性の大きさだ。幼少時代から巨人ファンだったという渡辺。その憧れの球団の一員となった現在の心境を訊いた。
―― ドラフトで指名された時の気持ちは?
渡辺: 当日は買い物に出かけていたのですが、電気屋さんを通ったらドラフト会議が映されていたので観たりしていましたね。ただ、自分自身は指名されないだろうと、半ば諦めの気持ちでいました。そしたら球団から指名されたという電話がかかってきたので、本当にビックリしました。しかも小さい頃から「伝統があって、一番人気がある」というイメージを抱いていたジャイアンツに指名されたということで、嬉しかったです。

―― 球団にはどんな点を評価されたのか?
渡辺: マウンド度胸だと思います。どんなバッターに対しても、萎縮することなく、思いっきり投げられるところですね。あとはバッターが打ちづらい独特のフォームをしているところが評価されたのかなと思っています。

―― 高卒で独立リーグに入ったきっかけは?
渡辺: 実は高3の夏の県大会決勝で敗れた後、野球から離れようと思っていたんです。高校時代は練習が本当に厳しくて、野球が嫌になるくらい十分にやりきった感があったからだったと思うんですけど、とにかく離れたかった。でも、日が経つにつれて、やっぱり野球がやりたいという気持ちがどんどん大きくなっていきました。そんな時、アルビレックスのマネジャーさんから声をかけていただいたんです。「BCリーグはレベルも高いし、NPBとの交流戦もある。NPBに行ける可能性もあるから、やってみないか?」と。もちろん、やるからにはNPBを目指そうという気持ちはありましたから、入団テストを受けようと決めました。

―― そのアルビレックスで習得したのが、チェンジアップ。
渡辺: 高校時代から投げてはいたのですが、スローボールみたいでしたし、ストレートと同じ腕の振りをしていなくて、バッターに見破られていたんです。それをアルビレックスに入ってから、ほとんど同じ腕の振りで投げられるようになりましたし、変化も鋭くなりました。今では内に曲がったり、外に曲がったりして、正直自分でもどっちに曲がるのか、投げてみないとわからないんです。逆にバッターとすれば、それが打ちづらいのかなと思います。

 涙した高2、高3の夏

―― なぜ、新潟から山形の鶴岡東高へ?
渡辺: 県内の強豪校は硬式出身者しかとらないと言われてしまったんです。それで、少しでも甲子園に行く可能性が高い鶴岡東に行くことにしました。

―― 高3の夏は、あと一歩で甲子園を逃した。
渡辺: 決勝は延長12回、1点差で敗れてしまいました。決勝点はバックのエラーが絡んだ失点だったとはいえ、その前のランナーは自分がヒットで出してしまっていましたから、全て自分の責任。もう、後悔しか残らなかったですね。ただ、昨年は後輩たちが甲子園に出場したんです。正直、1年前のことを思い出して悔しさもありましたが、後輩たちが甲子園でプレーしている姿は「もっと頑張らなくちゃいけない」と自分を鼓舞させてくれました。

―― これまでの野球人生で転機は?
渡辺: 高2の時ですね。その年は、春からずっと調子が戻らなくて、結果を出せなかったんです。それでも夏の県大会、先発をさせてもらったんですけど、初戦で敗れてしまいました。もう、3年生には本当に申し訳なかったです。でも試合後、落ち込んでいる僕に監督が「オマエは高校野球で終わるようなヤツじゃない」って言ってくれたんです。その言葉があったからこそ、「来年は絶対に甲子園に行って、3年生に恩返ししよう」と思えました。結果的には甲子園には出られませんでしたが、監督からの言葉は大きかったですね。

―― その後、自分自身に変化は?
渡辺: 3年になってから、マウンドでの気持ちの在り方が変わりました。それまでは気持ちがすぐに顔に出てしまっていたのですが、それでいいことはないなと気づいたんです。それからは顔に出さないようにしました。最初は出そうになって、グッとこらえることもありましたが、結構すんなりとできるようになりましたね。今もいつも平常心で投げることを心掛けています。

 インタビューの最後に座右の銘を訊くと、渡辺は「謙虚」と答えた。「自分一人でやってきたわけではない。周囲に感謝する気持ちを忘れないようにしたい」と、グラブにも刺繍しているのだという。19歳とは思えない言葉に、彼の素質の高さがうかがえた。育成選手の育て方に定評のある巨人軍で、渡辺はどんなピッチャーへと化けるのか。まずは支配下登録を目指すサウスポーの今後に注目したい。

渡辺貴洋(わたなべ・たかひろ)プロフィール>
1992年8月26日、新潟県生まれ。鶴岡東高では3年の夏、県大会決勝に進出。準決勝に続いて延長戦を投げ抜き、160球の力投も1点差で敗れた。卒業後、BCリーグ・新潟アルビレックスBCに入団。1年目から23試合に登板し、7勝2敗、防御率1.94の好成績を挙げた。172センチ、70キロ。左投左打。

(聞き手・斎藤寿子)

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