今季、ダルビッシュ有が入団して注目を集めているテキサス・レンジャーズ。そのレンジャーズで昨季、建山義紀はリリーバーとして39試合に登板し、2勝1セーブ4ホールドでリーグ優勝に貢献した。首脳陣から課された最大の任務は“右殺し”。2年目を迎える“テキサスの右殺し”に、メジャーリーグを生き抜くための秘策はあるのか。二宮清純が訊いた。
(写真:身長178センチ、体重75キロの華奢な体だけに「一般の方に“お仕事は先生ですか?”と言われました(笑)」)
二宮: メジャー1年目のご自身の手応えはいかがですか?
建山: Wシリーズという最高の舞台でメンバーから外れたことが悔しいですね。ただ、チームの一員として最後まで帯同できたことは誇りに思います。シーズンの最初をマイナーリーグからスタートして、途中からメジャーに上がったことを考えれば、上々の結果かもしれないですね。

二宮: 今季から再びチームメイトとなるダルビッシュは10種類を超える変化球を投げるといわれています。現在の建山さんの持ち球は?
建山: ストレート、カーブ、それから左バッターに投げるチェンジアップですね。

二宮: メジャーリーグの猛者相手に、球種が3つだけでは苦労するのでは?
建山: 僕は右バッターを絶対に打たせないというポリシーを持っています。左バッター対策として球種を増やすべきかなとは思いますが、仮に“右バッターだけを抑えてくれ”と言われれば、真っすぐとカーブ以外は絶対に覚えないですね。

二宮: 右バッターには2種類だけですか?
建山: 2種類といっても、僕は真っすぐがナチュラルにシュート回転するんです。メジャーリーグの選手は全員が全員、ツーシームと言いますね。

二宮: それだけ真っすぐが変化すると?
建山: はい。日本の表現で言えばシュート。アメリカだったらツーシームの変化をしているんです。ただ、僕は一切曲げようとはしていません。ツーシームのように指を2つの縫い目にかけているわけでもなく、フォーシームの握りで、横から投げているだけです。この自然とシュートに変化するのが効果的で、バッターが引っかけてくれるんですよ。

二宮: それは得な球種ですね。昨季、強打者揃いのメジャーリーグで、中でもやり甲斐のあったバッターは?
建山: デトロイト・タイガースのミゲル・カブレラですね。対戦して、打ち取ることはできたんです。ただ、打球の上がり方が他の選手と違いました。打球の初速が違うというか……。ライトフライに打ち取ったんですけど、一瞬、「スタンドに届いたんじゃないかな」というふうに思いました。それでも、右バッターだったので対戦に怖さは感じませんでしたね。逆に、無名のバッターを相手にするより、マウンドの上で自分が躍動できていた気がします。

二宮: 今季以降はバッターが建山さんに慣れてくるでしょう。その意味で2年目からが本当の勝負になる。今季の課題はどのように考えていますか?
建山: 今季は「初対戦」いうピッチャーにとって最大のアドバンテージを失います。対戦するバッターは僕のカーブを頭に置いて打席に入ってくるでしょう。なので、昨季対戦したバッターに対しては、インコースへナチュラルにシュートしていく真っすぐを、多く投げていこうと考えています。カーブに意識がある分、シュートに多少詰まるでしょうからね。そして、バッターが詰まってポイントを前にしようかなと考えた時に、またカーブ。こういった駆け引きにより磨きをかけていきたいですね。
(写真:マイナーでのシーズンスタートにも「マイナーリーグを経験していい意味で開き直れるようになった」)

二宮: 昨季の対戦成績や、打者にどのような配球をしたのかというデータはノートなどに記録しているんですか?
建山: いや、僕は記憶力に自信があるので、対戦内容を覚えているんです。たとえば昨季、カブレラと2打席対戦した時の投球パターン、内容も全部覚えています。マウンドの上で、データがポンっと出てくるんですよ。今季はマウンド上でデータを反芻しながら投球パターンを考えていきたいですね。

二宮: 最後に、リリーフの一番の醍醐味とは?
建山: ランナーを背負って行く独特なかたちで出て行って、そこをどう凌ぐのか。試合の流れを左右するところ、分岐点でプレーするところがリリーフの醍醐味だと思いますね。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2012年3月5日号)に建山義紀投手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください。>