ベースボールという名の格闘技――メジャーリーグには、そんな趣がある。

 

 

 それを象徴するのが併殺阻止のために一塁ランナーが仕掛ける二塁手、遊撃手への危険なスライディングだ。

 これにより、何人かの日本人内野手が犠牲になった。

 

 現在は独立リーグ「BCリーグ」の福島ホープスの球団代表兼選手兼監督を務める岩村明憲はレイズ時代の2009年5月、マーリンズ(当時)のクリス・コグランの“殺人スライディング”を受け、前十字じん帯断裂(後に部分断裂と判明)という重傷を負った。

「まず僕の足の甲の上に、滑り込んできた相手の足が乗って、足を引けなくなった。足が引ければ、相手をかわして受け身をとることもできるのですが、これでは身動きが取れない。そのまま相手の体がヒザをドンと直撃したんです。
 診察してもらうと、左足首の三角じん帯、左ひざの前十字じん帯、内側側副じん帯を損傷していました」

 

 野球選手にとって、ヒザは命である。この大ケガを境に岩村のパフォーマンスは低下し、日本球界復帰後も、かつての輝きを取り戻すことはできなかった。

 

 メジャーリーグで危険なスライディングの犠牲になったのは岩村だけではない。メッツ時代の松井稼頭央、ツインズ時代の西岡剛も、文字どおり“痛い目”に遭っている。

 

 ところが今季から、メジャーリーグはこうした併殺阻止目当ての悪質なスライディングを禁止する。野手を狙った場合は守備妨害が宣告される。

 

 2年前には本塁前での捕手のブロックや、走者の捕手への体当たりも禁止する新ルールを採用した。

 良くも悪くも、ベース付近での衝突はメジャーリーグの華であり、それを楽しみにしている観客もたくさんいた。

 

 それが、なぜ今、安全重視の姿勢にカジを切ったのか。
「近年、メジャーリーグではメッツの遊撃手ルーベン・テハダ、ジャイアンツの捕手バスター・ポージーなど危険なスライディングやタックルを受け、大ケガをする選手が相次いでいる。経営者側は“高い年俸を払っている選手をポンコツにされてはたまらない”と苛立っていた。一方で選手会側にも、“選手寿命を縮めるようなプレーを野放しにはできない”との考えがあった。双方の危機意識の表れでしょう」(MLB元フロント)

 

 安全重視の姿勢は間違いではない。一方でやんちゃな部分も多少は残しておいて欲しいと思うのは、私だけか……。

 

<この原稿は『週刊漫画ゴラク』2016年3月25日号に掲載されたものです>

 


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