日本球界復帰2年目の広島・黒田博樹が絶好調だ。
今季初登板は3月26日、本拠地マツダスタジアムでの横浜DeNA戦。7回を投げてDeNA打線を1点に封じ、初勝利を挙げた。
圧巻だったのは4月2日、本拠地での巨人戦だ。120球の力投で日本では9年ぶりの完封勝利をおさめた。
被安打4、与四球1。2安打された8回を除いて巨人に付け入るスキを与えなかった。
「やっぱりしんどいですね」
流れる汗をぬぐおうともせずに黒田は言った。
「黒田ひとりで勝ったようなもの。今回は黒田に尽きる」
監督の緒方孝市も最敬礼だった。
これで日米通算197勝。大台にあと3勝と迫った。
舶来の変化球に、さらに磨きがかかっている。フロントドアとバックドアだ。
前者は内角のボールゾーンからストライクゾーンに食い込ませる球。打者をのけぞらせる効果がある。
一方、後者はベースを巻くようにして外からアウトコースいっぱいを狙う。どちらもホームベースをよぎるのは、キャッチャーミットにおさまる直前になる。
それについて、本人はこう語っていた。
「投げる側としては(自分の目でボールが)動いているとわかるより、バッターの様子で“動いていたな”と確認できるほうがいい。あまり大きくボールが動くと、バッターにアジャストされてしまう。調子がいい日は手元で、ほんの少しだけ動き、グシャっと詰まる打球が多くなる。打ったバッターが“あれ、今の何打ったの?”と首をひねるようなシーンが理想ですね」
バッターに的を絞らせない熟達のピッチングは、確かに「6億円」の価値がある。
ただし、ひとつ心配がある。開幕間もない頃から、これだけ無理をさせて1シーズン持つのだろうか。
黒田も41歳。不死身ではないのだ。春先の酷使が原因で肩やヒジを痛めるようなことがあれば元も子もない。
「まだ行くか?」
と問われれば、「行きます」と答えるのが黒田という男である。そして、それがピッチャーという生き物の性だ。
首脳陣に求められるのはアクセルではなくブレーキである。「もう1イニング頼む」と無理をさせるのは、ペナントレースが佳境に入ってからだろう。
黒田は「今年が最後」と決めているフシがある。
天王山のマウンドに上がってこそ、その雄姿は輝きを増す。「男気」に生きるベテランが最後の大勝負を挑んでいる。
<この原稿は『週刊漫画ゴラク』2016年4月29日号に掲載された原稿を一部再構成したものです>
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