プロ野球が開幕して約10日、パ・リーグでは3連覇を狙う福岡ソフトバンクが7勝2敗と好スタートを切った。和田毅(現オリオールズ)、デニス・ホールトン(現巨人)、杉内俊哉(同)と昨季、合計で43勝をあげた先発投手が相次いでチームを去り、抑えの馬原孝浩は故障で離脱。攻撃面でもリードオフマンの川崎宗則(現マリナーズ)がメジャーリーグに挑戦するなど、今季のソフトバンクは大幅な戦力ダウンがささやかれた。そんななか、秋山幸二監督はどのようにチームの舵をとろうとしているのか。開幕前の指揮官に二宮清純がインタビューを試みた。
二宮: ソフトバンクは昨オフ、日本一に貢献した主力がごっそりと抜けました。監督としてはシーズンへ不安もあるのでは?
秋山: それはよく聞かれる質問ですね(笑)。でも去年は去年、今年は今年。相手チームも変わっているんだし、こちらも新しい選手を獲得したり、若い選手も出てきている。だから、単純に43勝分がなくなったと考えるのは、ちょっと違うんじゃないかなと感じます。

二宮: 秋山監督は現役時代、西武黄金期の主力選手でした。あの頃は主力メンバーが毎年、ほぼ固定されていましたね。しかし、今はFA制度やポスティングシステムもあり、昔と比べるとチームの戦力が流動化しやすい。常勝チームをつくるのは難しくなっているのでは?
秋山: それはもう間違いないです。どんどん選手が動くので、その分、補強ができるメリットもあれば、主力が流出するデメリットもある。結局はFA補強に頼るだけでなく、ちゃんと若くて何年もレギュラーを張れる選手を育てないとチームづくりが難しいなと思いますね。

二宮: おっしゃるように主力が抜ければ、その分、若手にはチャンスが出てくる。そこに期待したいというわけですね。
秋山: このオフの状況をみれば、若い選手は言われなくても「よし! やってやろう」と思ったでしょう。それがいい方向に出てきてほしいですね。

二宮: その若手の見極めで、秋山監督が心がけていることは?
秋山: まずは、じっと「観る」ことですね。個々の選手の調子の良い時の状態、悪い時の状態、精神力や成長度合いはひとりひとり違う。だから、それを把握する。かつコーチ連中から情報を集めて、今、どのレベルに来ているのかを確認する。 

二宮: そこで気づいた点は選手に伝えると?
秋山: いや、直接言うことは基本的にないですね。あくまでも僕の情報だから、担当コーチに話をします。特に新人に関しては何も言いませんね。まず、やらせてみる。その姿をちゃんと見ていれば、行き詰った時にはわかりますから。壁にぶつかりそうになった時には、ピッチャーなら、受けているキャッチャーに確認したり、実績のあるピッチャー出身の解説者に聞いてみる。「オレはこう思うんだけど、どう?」って。もし見方が一致すれば、そのキャッチャーや解説者を通じてアドバイスしてもらう。成長のきっかけになるのであれば、使えるものは何だって使うんですよ(笑)。

二宮: 秋山流の見極め術は、第一にじっと「観る」こと。次に実際に試合で使うかどうかはどう判断するのですか。
秋山: それは明確です。一軍のレベルに達しているかいないか。一軍は勝つことが目的なので、試合に出しても結果を残す可能性が低い選手をあえて使うことは基本的にありません。ピッチャーもバッターも、ここまでくれば一軍クラスというハードルを、まずは二軍でクリアしてもらうことが大前提になります。
 そして最終的には僕の中で、こうこうこういう理由で使うんだというものが多いほうを起用しますね。使いたい理由は多ければ多いほどいい。そのほうが、もし失敗しても納得できますし、「この部分が足りないから、もう一度、二軍でクリアしてほしい」と課題を伝えやすい。

二宮: ただ、一軍レベルといっても、たとえば川崎選手の抜けたショートをいきなり埋められるとは限りません。複数の選手を併用しながら戦っていかざるを得ない部分も出てくるでしょう。どの選手を使うべきか迷うこともあるのでは?
秋山: その時は、いなかったらいないなりに比較して当てはまる選手を探すしかないですね。僕たちは常に選手を見て、ランク付けをしていますから、こいつがダメなら、こっちという順番はできています。加えて、その時々のシチュエーションで攻撃を重視するのか、守備を重視するのかで優先順位は変わってくる。もちろん、各選手には課題をそれぞれクリアしてもらうことを求めつつ、いなかったら、その中でベストの選択をするだけです。

二宮: 試合は待ってくれませんから、若手のレベルアップに期待しつつも、勝つための最善手をやりくりしながら見出していくと?
秋山: そうです。やりくりですね。だから、今のチームは二軍の役割がすごく重要なんです。二軍と情報を共有しながら、一緒になってひとつひとつ課題をクリアするように指導してほしい。一軍レベルの選手がひとりでも増えてくれないことには困るんです。

二宮: その点、ソフトバンクは、一軍と二軍の情報をシステム管理したり、新型iPadを導入して、選手たちが相手チームを研究できるようにしたりと親会社が協力的ですね。
秋山: これはすごくありがたいですよ。オーナーも「使えるものは使ってくれ」と言ってくれますから。ただ僕は一番、iPadを使っていないタイプかな(苦笑)。

二宮: 機械は苦手ですか(笑)。
秋山: というより、僕は実戦で見て判断するタイプなんです。やはり、実際に見てみないと、その選手の本当の姿は分かりません。だから、実戦では1球1球、全部頭の中にインプットします。こちらのピッチャーが1回から9回までトータルで130球投げて、相手のピッチャーも130球投げるとしたら、その260球すべてを見ています。ピッチャーもバッターも全部見る。だから、この仕事は本当に疲れるんですよ(笑)。

<現在発売中の『潮』2012年5月号では、さらに詳しいインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>