広島カープが最後にリーグ優勝を果たしたのは1991年だから、昨季まで24シーズン、優勝から見放されている。不名誉なことに12球団の中で最も優勝から遠ざかっているのが広島である。

 

 

 その広島が交流戦を終えた6月20日現在、セ・リーグの首位に立っている。リーグトップのチーム打率(2割6分7厘)が貯金11の原動力となっている。

 

「今年一番のヒットは、田中広輔をトップに固定したこと。これにより2番・菊池涼介、3番・丸佳浩とスムーズにつながるようになった。

 打撃コーチの石井琢朗が“1番・田中”を緒方孝市監督に進言したと聞いたけど、これはいいアドバイスだったと思うね。昨年まで田中は7番に入ることが多かった。勝負強さが田中の魅力だけど、7番だと勝負を避けられてしまう。ランナーがいる場合、相手バッテリーは“8、9番で勝負”となる。田中のせっかくの持ち味が生かされていなかった。

 それが今季、1番に入ったことで水を得たサカナのようにいきいきとプレーしている。足も速く適任だと思いますよ」

 そう語ったのは広島OBで、14年までは巨人の投手コーチを務めた川口和久だ。

 

 6月20日現在、打率2割9分2厘、6本塁打、16打点。光るのはリーグトップの60得点と同2位の16盗塁だ。リードオフマンの役割をしっかりと果たしている。

 

 5月3日、東京ドームでの巨人戦ではサウスポーの田口麗斗から先頭打者初球ホームランを放った。

 田口のスライダーを狙い打ったことでもわかるように、田中は全く左を苦にしない。田口には今季11打数5安打、打率4割5分5厘とカモにしている。

 

 そこで調べてみると今季、右ピッチャーに対しては2割9分4厘であるのに対し、左ピッチャーに対しては2割8分9厘と遜色ない。本人も対左には自信があるようで「昔から苦手と思ったことはありません」と語っていた。

 

 左対左は「ピッチャー有利」が相場だが、必ずしもそうとは限らない。落合博満(現中日GM)は監督時代、左の先発を予想して、あえて左打者を並べたことがある。「左対左は実は、ピッチャーの方が投げにくいんだよ」というのが、その理由だった。

 

 田中の死球数10はリーグトップ。そのうちの6つが左ピッチャーだ。投げにくさもあるのではないか。

 

 余談だが、広島の日本シリーズ連覇(79、80年)の立役者である江夏豊に、「今、広島で最も気になる選手は?」と問うたところ、期せずして田中の名前が返ってきた。

「決してバッティングがうまいとはいえないけど、ポイントポイントで当てにいかず、しっかり振り切っているよね。本人なりの考えがあって狙い球を決めているんだろう。味のあるいい選手だよ」

 

 JR東日本から広島に入って3年目の26歳。“キクマルコンビ”の菊池と丸は同学年だ。年齢的には、これから脂が乗る頃。新・切り込み隊長の活躍なくして広島の25年ぶりの優勝はない。

 

 

<この原稿は『サンデー毎日』2016年6月26日号に掲載された原稿を一部再構成したものです>


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