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(写真:山縣<右>に先行されたものの、ゴールライン直前で差し切ったケンブリッジ<中央>)

 25日、リオデジャネイロ五輪日本代表選考会を兼ねた「第100回日本陸上競技選手権大会」2日目が愛知・パロマ瑞穂スタジアムで行われ、男子100メートル決勝はケンブリッジ飛鳥(ドーム)が10秒16で初優勝を果たした。2位には100分の1秒差で山縣亮太(セイコーホールディングス)が入った。男子やり投げは新井涼平(スズキ浜松AC)が84メートル54の大会新記録をマークし、3連覇を達成。女子100メートル決勝では福島千里(北海道ハイテクAC)が11秒45で優勝し、7年連続8度目の優勝を成し遂げた。ケンブリッジ、新井、福島は揃ってリオ五輪代表に内定した。

 

 そのほか男子400メートルのウォルシュ・ジュリアン(東洋大)、男子400メートルハードルの野澤啓佑(ミズノ)、女子3000メートル障害の高見澤安珠(松山大)はいずれも優勝でリオ五輪代表に内定。男子100メートル3位の桐生祥秀(東洋大)、女子やり投げ2位の海老原有希(スズキ浜松AC)は既に日本陸上競技連盟が定める派遣設定記録を突破していたため、8位以内という選考基準を満たし、五輪代表入りを決めた。

 

 男子100メートル“10秒の壁”。数多の日本人スプリンターが挑んでは、跳ね返されてきた。日本の陸上関係者たちも歴史を塗り替える瞬間を今か今かと待ちわびている。近年、国内での狂想曲はヒートアップしている。その期待を背負う若武者がぶつかり合った。

 

 3年前、高校生で日本歴代2位の10秒01を出した桐生。2週間前の日本学生個人選手権で再び10秒01を叩き出した。ロンドン五輪代表の山縣は、3年前の日本選手権王者。約3週間前の布施スプリントで日本歴代5位となる10秒06の自己ベストをマークした。ここ一番での勝負強さは桐生よりも上と見られている。ケガに苦しんでいた2人のライバルが、今シーズン調子を上げてきていた。

 

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(写真:「チャンスはあると思っていた」と初の日本一を喜んだケンブリッジ)

 この2強に割って入ってきたのが、ケンブリッジだ。ジャマイカ人の父を持つハーフ。5月の東日本実業団陸上競技選手権では10秒10で走った。180センチの長身に、肉体改造で逞しさが増した感がある。3人は揃って大会前日会見に出席したことからも、男子100メートルへの注目度の高さが伺える。

 

 大会初日に予選、準決勝を行い、3人はいずれも順当に決勝まで上がってきた。しかし天気は生憎の雨。それでもパロマ瑞穂スタジアムには2万を超える観客が集まった。男子100メートル決勝は午後8時半スタート。ライトに照らされ、雨粒ははっきりと確認できるほど降り続いていた。

 

 一瞬の静寂の後、号砲は打ち鳴らされた。まず飛び出したのは山縣。反応のいいスタートから中盤から終盤にかけて減速が少ないのが持ち味である。今シーズンは筋力アップを図ったことで、フォームの安定感はさらに増したように映る。このまま逃げ切りたいところだが、桐生も追いかけてくる。

 

 それでも桐生は山縣をとらえることはできない。ここで2人の間を割って入るように加速してきた男がいる。ケンブリッジは力強いストライドで山縣に接近した。「しっかりとスピードにつなげられた」とケンブリッジ。最後はともに胸を突き出してフィニッシュした。山縣も「1着でゴールしたか、差されたのかはどっちかわからなかった」と語るように、肉眼では判定が難しいほどの接戦だった。結果は0秒01差でケンブリッジに軍配が上がった。

 

 向かい風は0.3メートル。決して恵まれたコンディションではなかったが、ケンブリッジは10秒16で優勝した。「まず日本一になることを達成できたのは良かった」。リオ五輪参加標準記録(10秒16)を既に突破していたケンブリッジは、これで選考基準をクリアした。初の五輪切符を手中に収めた。「ずっと目標にしてきた舞台なので、楽しんで走りたい」と意気込んだ。ここ4年で日本選手権王者は常に入れ替わってきている。この日も“10秒の壁”は破れなかったが、歴史への挑戦者がまたひとり現れたことは歓迎すべきだろう。

 

 新鋭が続々とリオへ

 

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(写真:「出るからにはメダルを狙う」と、日本記録更新&90M超えを目指す新井<中央>)

 男子やり投げの新井は、雨雲を貫くような力強い投擲を見せた。2投目で80メートル22を記録し、場内を沸かせた。ところが3、4投目は思ったほど伸びずに77メートル台に終わった。新井は観客に手拍子を求め、気持ちを昂らせた。

 

 そして5投目に再び観衆を沸かせるビッグスロー。新井の叫び声に乗せて、やりは高く舞った。自らが昨年打ち立てた大会記録を更新する84メートル54の投擲だった。今大会唯一の80メートル台をマークする圧勝。派遣設定記録(84メートル32)は既に突破していたが、ここでもその数字を上回った。優勝後には結婚を報告するなど私生活も充実している。23日に誕生日を迎えたばかりの25歳は初のリオ行きを射止めた。

 

 男子400メートルは11連覇中の金丸祐三(大塚製薬)がまさかの予選落ち。19歳のウォルシュと北川貴理(順天堂大)、21歳の加藤修也(早稲田大)の若手が覇権を争った。

 

 中でもウォルシュは今シーズン急成長している。ゴールデングランプリ川崎では海外勢を抑えて優勝。前日の予選で自己ベストをマークすると、この日の決勝はバックストレートから勢いよく加速していく。力強い走りで、誰よりも早くゴールした。フィニッシュタイム45秒35は五輪参加標準を0秒05クリアした。ジャマイカ人の父を持つウォルシュは、高校から陸上を始めてキャリアは浅いが「僕は自分のことを信じていた」と五輪代表入りを実現させた。

 

 主な決勝の結果は次の通り。

 

<男子100メートル>

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(写真:3年ぶりの優勝は逃した山縣<左>だが、リオ五輪代表入りを有力視されている)

1位 ケンブリッジ飛鳥(ドーム) 10秒16

2位 山縣亮太(セイコー・ホールディングス) 10秒17

3位 桐生祥秀(東洋大) 10秒31

 

<男子400メートル>

1位 ウォルシュ・ジュリアン(東洋大) 45秒35

2位 加藤修也(早稲田大) 45秒71

3位 北川貴理(順天堂大) 45秒93

 

<男子400メートルハードル>

1位 野澤啓佑(ミズノ) 49秒14

2位 松下祐樹(ミズノ) 49秒31

3位 小西勇太(住友電工) 49秒55

 

<男子やり投げ>

1位 新井涼平(スズキ浜松AC) 84メートル54 ※大会新

2位 村上幸史(スズキ浜松AC) 78メートル10

3位 長谷川鉱平(福井陸協) 76メートル50

 

<女子100メートル>

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(写真:福島<中>に続き、高校2年の齋藤<左>が2位に入った)

1位 福島千里(北海道ハイテクAC) 11秒45

2位 齋藤愛美(倉敷中央高) 11秒74

3位 世古和(CRANE) 11秒75

 

<女子3000メートル障害>

1位 高見澤安珠(松山大) 9分44秒22 ※大会新

2位 森智香子(積水化学) 9分45秒27

3位 三郷実沙希(スズキ浜松AC) 9分54秒27

 

<女子やり投げ>

1位 宮下梨沙(大体大T.C) 58メートル35

2位 海老原有希(スズキ浜松AC) 57メートル88

3位 北口榛花(日本大) 57メートル23

 

※選手名の太字はリオデジャネイロ五輪代表に内定

 

(文・写真/杉浦泰介)