もはや、何も言うことはない。すべてがうまくいっている――。そんな感じでしょうか。1991年以来だから、25年ぶりの優勝だなあ。

 

 あえて気がかりな点を探せば、ブレイディン・ヘーゲンズに、少し疲れが見えること、くらいだろうか。勝ち試合が多い分、まさに酷使された前半戦だった。

 

 そのために、スティーブ・デラバーも獲得したのだから、中継ぎは万全でしょ、とおっしゃるかもしれない。それはちょっとヘーゲンズに申し訳ないのではあるまいか。

 

 回をまたいで投げたこともあったし、ここまでのカープ快進撃を、縁の下の力持ちのように支えたのは、まちがいなく、ヘーゲンズである。彼が1年間もつように配慮して起用するのも、首脳陣の責務だろう。

 

 と、よけいな心配をしていたら、なんと、戸田隆矢がプロ初完投・初完封をなしとげた。7月10日の阪神戦のことである。ヘーゲンズのみならず、ジェイ・ジャクソンも中崎翔太も休むことができた。

 

 この試合、戸田のみならず會澤翼にとっても大きかったのではないか。そう、捕手は會澤だったのである。

 

 やはり印象的なのは9回裏だ。

 

 2死一、二塁で、代打・高山俊。高山はスライダーをとらえてライト前にクリーンヒット。あぁ、完封ならずか、とため息をついたらなんと二塁走者が三塁でストップした。あらためて確認したら、マウロ・ゴメスだった。余計なお世話だが、このあたりに阪神の弱さを感じますね。

 

 で、満塁となって最後の打者は西岡剛。

 

 初球。どうするのかなと思ったら、インローにストレート。西岡、思い切り空振り。明らかにコースも球種も読み切って、満塁ホームランを狙っていた。そういうスイングである。逆に言えば、完全に読まれていたにもかかわらず、ストレートで空振りがとれた。

 

 2球目。再びストレート。外角やや高め。これが、ストライクとなった。この判定が大きかった。

 

 3球目。当然、変化球も頭をよぎると思うのだが、思い切り腕を振ってストレート。真ん中高めに見えたが、センターフライでゲームセット。

 

 特筆したいのは、戸田が9回になって球数130球を超えても、とにかく思い切り腕を振り続けたことだ。

 

 そして最後は、會澤も変化球のサインを出さず、ストレートで完封を達成したことである。腕が振れているので、球速はやや落ちても、打者の手元で伸びていたのだろう。

 

 この経験は、戸田にとっても、會澤にとっても、今後の財産になるに違いない。たとえ試合の序盤が絶好調でも、最終的に、勝負に勝てなければ意味はない。最後の土壇場で勝ちきる、投げきる、という、いわば勝負の一線を越えた感覚を、肌で知ることができたのだ。バッテリーを育てた完封だった、といえよう。

 

 こうして、勝ちながら、若手も成長しているのが、今のカープである(現時点で、その象徴が、鈴木誠也と下水流昂ですね)。いやはや、素晴らしい。あとはこれがシーズン終盤まで続くことを祈るのみだ。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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