10 泉礼花の実業団公式戦初登板は、ホロ苦いデビューに終わった。ルーキーながら日本リーグの開幕投手に指名された泉は、“自分のチェンジアップは打たれない”と自信満々でマウンドに上がったものの、ゲーム開始早々に2ランを浴びた。4回1/3を投げて6安打2失点。公式戦初登板で彼女のプライドはズタズタに傷つけられてしまった。

 

 2014年4月13日、対Honda戦。初回2死二塁で4番の森山遥菜にレフトへ運ばれた。フルカウントから打たれた球種は彼女の武器であるチェンジアップだった。実業団でも通用すると思っていたウイニングショットがいとも簡単に打たれてしまった。この瞬間、泉は“あぁ、何も通用しないんだ。今までやってきたことは何だったんだろう”と肩を落とした。

 

 黒星こそつかなかったが、デビュー戦でいきなりトップリーグの洗礼を浴びた。泉は「大学まではソフトボールを“楽しい”と思ってやっていたけど、それだけでは勝てない。ソフトボールが“好き”という気持ちだけでも勝てないことを知った。自分はまだまだ甘いと感じました」と振り返る。

 

「1年目は必死でした」と話すように、それからは女房役の清原奈侑と試行錯誤を重ねた。清原とは園田学園女子大学時代からバッテリーを組んでいたこともあり、相性はバツグンだった。泉は「試合に出場しながら、対バッターの経験を積んでいったことが大きかった。自分ひとりでは無理だったと思います」と、清原に対する感謝の気持ちを口にする。

 

 試行錯誤の中でチェンジアップの使い方と投球のテンポを変えた。「大学までは打ち取れていましたが、チェンジアップが遅すぎて、ここでは通用しなかった。投球のテンポは、相手の嫌がる速さを研究して、速くしたり逆に遅くしたりして工夫しました」と話す。チェンジアップの球速を上げ、テンポは相手や状況に応じて自在に変えた。試合を重ねていくごとに“これならやっていける”と徐々にモデルチェンジの手応えを掴んでいった。

 

 泉のルーキーイヤーは終わってみれば、6勝4敗、防御率1.95。1年目としては十分すぎる成績を残し、新人賞を獲得した。当の本人は「新人賞はあまり意識していなくて、チームを勝たせたいという気持ちの方が強かった」と言う。チームの勝利を第一に考えている泉にとって、個人タイトルはさほど重要ではなかったのかもしれない。何よりも勝ちにこだわる彼女らしい答えだった。

 

 ソフトボールで親孝行

8 今年に入って2歳年下の妹・花穂が日立に入社してきた。同じチームでプレーするのは高松南高校3年時以来6年ぶりだ。泉にとって花穂は「自分を高める存在」と話すように、小さい頃から姉妹で切磋琢磨しながらソフトボールに打ち込んできた。

「高校までは全部一緒にやっていました。“花穂、走りに行こう”“お姉ちゃん、トレーニングしよう”と。身長も同じぐらいで、髪型も似ていたので、周りからは“どっちが投げているのか分からない”とよく言われました(笑)」

 

 2人は大学に入学してから離れ離れになってしまったが、「妹にも園田に来て欲しかった」というのが、姉の本音だった。大学時代は妹がいる早稲田大学と戦うこともあった。両親からすれば複雑な心境だったのだろう。父・満は「敵になるので、どちらのチーム側にも行かずに真ん中でずっと見ていました。つらかったですね」と本音を漏らした。

 

 姉妹は別々のチームでプレーしたことで互いの大切さを改めて知ることができた。泉は「他のチームをみても、姉妹で同じチームでプレーすることはなかなかいないですし、自分たちにしかできないこと。あとは、親孝行というか……。妹と一緒に出場した試合で勝つ瞬間を両親に見せることができるのは、恩返しになるのではないかと思うんです」と話す。これに対して、父・満は「今は我々からしたら夢のような感じです。娘たちには感謝していますよ」と喜んでいた。

 

 プライベートでは仲良し姉妹だが、チームでは先輩後輩の関係にあたる。しかも、同じポジションとなればライバルだ。泉は「ライバルなんですけど、妹がいるだけで自分も高められる。自分にないものを持っています」と妹の実力を認めている。しかし、負けず嫌いの泉はきっと“妹には負けられない”との思いを抱いているだろう。それは、今後、泉が飛躍するための大きな原動力になるに違いない。

 

 ソフトボールは2008年北京五輪を最後に五輪競技から除外されたが、4年後の東京五輪で野球とともに復活することが濃厚になった。泉は2020年東京五輪に向けて編成されたTAP‐A代表に選ばれている。日本代表の福田五志ヘッドコーチは「トップの­代表に入るか入らないかのところだと­思います」と評価しており、このまま順調に成長していけばトップ代表入りも夢ではない。

 

 4年後、28歳になる泉は年齢的にも一番脂が乗っている時期だ。東京五輪への想いを聞くと、本人は「目指しています。そこが一番の目標です」と力強く答えた。日の丸を背負う覚悟はできている。闘志むき出しの“強気なピッチング”で、世界の舞台を目指したい。

 

(おわり)

 

プロフ<泉礼花(いずみあやか)>

1991年11月25日、香川県高松市出身。小学1年でソフトボールを始める。高松南高では国民体育大会、全国高校選抜大会、インターハイなど全国大会に出場した。園田学園女子大では、11、12年にエースとして2年連続で全日本大学選手権を制する。14年に日立サンディーバに入社。14年は6勝4敗をあげて新人賞を獲得。今シーズン成績は2勝1敗、防御率2.47。(前半戦終了時点)。24歳以下の日本代表TAP-Aにも選出されている。身長165センチ。右投げ右打ち。背番号「11」。

 

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(文・写真/安部晴奈)

 

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