1609usami10 W杯最多優勝を誇るラグビー王国ニュージーランドにおいて、ロック(LO)は子供が憧れるポジションだという。ピッチで身体を張り、セットプレーでのキーマンとなるLOが強くて頼れるプレーヤーの象徴だからである。ジャパンラグビートップリーグのキヤノンイーグルスで、このポジションを任されているのが宇佐美和彦だ。

 

 身長197センチ、体重117キロの恵まれた体躯は、ピッチ上でも否が応にも目立つ。だが宇佐美は地味な仕事を黙々とこなしていく。試合のハイライトに映り込むことも少ない。テレビ中継で彼の名が連呼されることもあまりない。ボールキャリアする時間よりも、ピッチを駆け回る時間の方が圧倒的に多い。攻守両面において、汗をかき、身を挺する。

 

 宇佐美自身も“縁の下の力持ち”という役割に誇りを持っている。

「見えないところで頑張っているつもりです。チームがトライを取れた時はうれしい。トライを取るタイプではないということもありますが、自分がボールを持って陣地を稼いだことで人数が余って、その後に味方がトライを取れればいいんです」

 

 中でも守備に対するこだわりは一際強い。自らが壁となって敵に立ち塞がる。

「タックルをして、味方が絡んでノットリリースザボール(タックルを受けた選手がボールを離さない反則)を取れた時は気持ちいいですね。“自分が倒した”という手応えがありますから」

 身体を当てることに対する恐怖心はない。キックオフしてファーストコンタクトさえすれば、宇佐美の戦闘モードはオンになるのだ。

 

 長所である低い姿勢

 

1609usami23 低いタックルは彼の武器の1つである。宇佐美が所属するキヤノンの永友洋司監督は「彼は大きい身体の割に低いプレーができる。これが1つの特徴です。そして運動量、仕事量という面では非常に高いものがあります」と、その姿勢を高く評価する。

 

 キヤノンでスカウトを担当する瓜生靖治リクルーティングマネジャーは、宇佐美獲得に尽力した1人だ。瓜生も宇佐美の勤勉な仕事ぶりを買っている。

「彼はすごく愚直にプレーできる。観客がオーッと沸くような激しい当たりで目立つ選手ではないのですが、痛いところにも身体をどんどん押し込んでいく真面目さがある。それにボールをしっかり追いかけていくことにも長けていました。同じ身長の外国人選手ができないような低いプレーができるところが魅力ですね」

 

 低いのはタックルだけではない。物腰は柔らかくピッチを離れれば、好青年の顔を覗かせる。立命館大学、キヤノンで同期のフッカー(HO)庭井祐輔はこう証言する。

「あれだけすごい選手なのにすごく腰が低い。そういうところも尊敬できる部分です」

 

 今季からキャプテンを務める庭井同様に、宇佐美のキャラクターに太鼓判を押すのがチームの指揮官だ。永友監督は「ラグビーに限らず、人間性はすごく大事な要素です。何の分野でもそうだと思いますが、やはりラグビーをやる前に1人の人間として成長しなければいけない。彼は本当に素晴らしい人間だと思います」と賛辞を惜しまない。

 

 空中戦の指令塔役

 

1609usami11 LOはスクラム、ラインアウトなどのセットプレーでカギを握る存在だ。その例に漏れず、宇佐美はラインアウトで、チーム内の司令塔役を任されている。

「ラインアウトのディフェンスには自信があります。相手のサインを読むのは得意。そこを見てもらえたらなという思いはあります」

 

 相手ボールのラインアウト時はディフェンスラインに加わるHO庭井は「僕は何気なく相手のコールを聞いているのですが、彼も同じことをしているはずなのに試合中にサインを解読できる。そういう才能もあると思います。努力という部分でも相手をビデオで研究することも欠かしません」と宇佐美を称える。

 

「数字を覚えるのは好き」という宇佐美は、試合前からデータを頭に落とし込み、試合中には直感を働かせる。彼が空中戦を制圧することができるのは日本人離れした体格だけが理由ではない。

 

 小学校、中学校まで野球少年で白球を追いかけていた宇佐美だったが、高校からはその“標的”は楕円球に変わる。実は部活動に勤しむつもりはなかったが、ラグビー部顧問の熱意にほだされたのだった。

 

(第2回につづく)

 

1609usami3宇佐美和彦(うさみ・かずひこ)プロフィール>

1992年3月17日、愛媛県西条市生まれ。キヤノンイーグルス所属。小中は野球部に所属し、高校からラグビーを始めた。ポジションはロック。愛媛県西条高校では全国大会への出場はなかったものの、才能を買われて関西大学Aリーグの強豪・立命館大学に進んだ。U-20代表、日本代表候補にも選出された。14年、キヤノンに入社。恵まれた体格を生かし、1年目から主力としてプレーした。15年4月の韓国戦で日本代表初キャップを刻む。 同年W杯イングランド大会は最終スコッドにこそ入らなかったが、バックアッパーメンバーに選ばれた。現在は9キャップ。身長197センチ、体重117キロ。

 

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

shikoku_ehime


◎バックナンバーはこちらから