第70回 ボランティア参加にみる、新しいスポーツ大会への関わり方
東京マラソンに見られるようにスポーツボランティア人口が急増しています。NPO法人STANDにも、2020年のパラリンピックに向けてボランティア参加を希望する多くの人から問合せがあります。STANDでは「ボランティアアカデミー」を開講していますが、そこにも多くの人が参加しています。
◆ボランティアは新しいゾーン
スーパーラグビー日本大会を支えるボランティアチーム「In Touch」代表・眞柄泰利さん(サイバートラスト株式会社代表取締役)は、スポーツ大会は、主催する側があって、チケットを買って観戦する人がいる。けれどその間に、他にももっと楽しい関わり方がある、新しいゾーンがあるのではないか、と考えました。そのお話をお聞きしたとき、ボランティアアカデミーなどで、ボランティアとして大会と関わりたいという熱心な多くの人がいることと、共通すると感じました。そこで、私もIn Touchのお仲間に入れていただくことにしました。
眞柄さんはラグビーの大会に新たな関わり方ができるのではないか。そう考えて昨年のイングランドラグビーワールドカップを視察しました。真柄さんが現地で見たのは6000人規模のザ・パックと呼ばれるボランティア組織でした。ザ・パックは応募総数2万人超から2年間かけて6000人まで絞り込まれました。
この精鋭のボランティアスタッフがワールドカップを支えていたのです。イギリス視察を終えた眞柄さんの頭の中には、スーパーラグビー日本大会への関わり方のイメージができあがっていました。イギリスを越えるもの、日本独自のボランティア組織を作ろう。こうしてIn Touchが動き出したのです。
In Touchは3月から7月まで東京・秩父宮ラグビー場で開催されたスーパーラグビーの日本大会のボランティア組織です。昨年の秋からリクルーティングを実施して、ボランティアスタッフとして204名が登録されました。スーパーラグビー日本大会全5戦でのべ561名のボランティアが参加しました。
In Touchではボランティアスタッフのクオリティを保つために、服装規定や行動規範を厳しく設定しています。服装はディズニーランドのキャストに準ずる、また行動規範はラグビー憲章に基づいた行動が求められます。
いったいどんなボランティア活動が行われているのか。7月2日、秩父宮ラグビー場で開催されたスーパーラグビーを例に挙げてみます。
◆考えて自分の意志で動く
ここまで5回参加しているという皆勤賞の女性スタッフに話を聞いてみました。ラグビーをはじめとして各種スポーツを観戦してきた彼女は、このボランティアに参加したことで「2019年ラグビー日本ワールドカップ、2020年東京オリンピック・パラリンピックのボランティア参加にも興味が出てきた」とのことでした。
会場を回っていると赤いTシャツ(これがボランティアスタッフの目印)のスタッフが、元気よく物販をしている場面を目にしました。
「いらっしゃいませー」と元気な声を出していた男性に話を聞きました。
「スタッフがいかに気持ちよく動けるか、それを考えているのが参加して実感できます。提案した意見は改善されて、次回もっと気持ちよく参加できる。気持ちよく動ける環境だから、物販ではノルマがあるわけでもないのに声を出して積極的に売ろうとしてしまうんです」(20代・男性)
この男性以外にも「ボランティアも単純な手伝いではなくて大会運営に携わっていると実感できました」という意見も耳にしました。意見が反映されることも、ボランティアスタッフのやる気を高める重要な要素なのです。
ゲームが終了すると、In Touchのメンバーが会場出口付近で列を作り、お客さんをハイタッチで送り出しました。これも第4戦の際にスタッフから自然発生的に起こったものです。
「今日は負けたけれど、会場に来てくださってありがとう! 次もがんばろう!」と呼びかけると、ほとんどのお客さんがタッチを返してくれたのだそうです。
規範と規則はあるけれど、それ以外の行動は自然発生しました。日本大会の全5戦を終えると、改善で変わったこと、加えたこと、そして自然に派生したことなど、マニュアル外の活動が実に多くなっていたのでした。
In Touchのメンバーは、自らの考えや行動を、大会の会場で表現したのです。まさに、スポーツ大会参加の「新しいゾーン」がそこにはありました。「新ゾーン」は、参加した人が自分で何かを見つけて、それを達成できる場所でもある。それは自分以外の誰かの役に立った、という喜びでもあると感じました。
そして、こういった「新しい参加」はこれからも広がっていくことを確信しました。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>