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(写真:3日後に42歳となるが年齢による不安はないという)

 1日、格闘技イベント『RIZIN』は東京都内で記者会見を開き、元レスリング世界女王・山本美憂の参戦を発表した。山本は9月25日に行われるさいたまスーパーアリーナで開催される大会で総合格闘技(MMA)デビューを果たす。対戦相手は未定。会見に出席した山本は「最初は“まさか自分が”と思いましたが、すごくありがたいチャンス」と語った。RIZINの榊原信行実行委員長は「女子の戦国時代にまた一歩近づいた」と女子格闘技界のビッグネーム参戦を喜んだ。

 

 リオデジャネイロ五輪開幕まで数日を切った日、日本の格闘技界が大きな動きを見せた。リオ五輪出場を目指したものの、夢叶わなかった山本。弟(“KID”徳郁)も長男(アーセン)も挑戦したMMAの舞台に立つ。

 

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(写真:父・郁栄<後列右>らファミリーでフォトセッションに応じた)

 父・郁栄はミュンヘン五輪の代表。言わずと知れた格闘一家の長女である。13歳で日本を、17歳で世界を制した女子レスリング界の第一人者だ。当時五輪種目に女子レスリングがあれば金メダル獲得も夢ではないと言われていた。しかし、アテネ五輪で正式種目に採用されて以降、その舞台に立つことすらできない。

 

 カナダへの帰化を決意してまで狙ったリオ五輪だったが、彼女に選考会のステージは用意されなかった。「このままやめるのはもったいない。気持ちの整理がつかなかった」と山本。「まさか自分が」という榊原実行委員長のオファーを受諾した。

 

 KIDをコーチに、アーセンをチームメイトに家族一丸となってトレーニングを行っているという。本格的なMMAの練習はまだ始めたばかり。約2カ月の短期間で基礎から何までマスターしなければならない。本人も「レスリングとは姿勢から違う。これから打撃も覚えていきたい」と口にする。

 

 自らもレスリングからMMAに転向した経験を持つKIDは「打撃に対する目が慣れていない。ただ寝技は覚えやすいと思う。打撃に慣れるには、試合をこなさないと」と語る。「体力とかフィジカルは問題ない。あとは身体の使い方。アーセンが初戦であそこまでできたので自分の練習についてこられれば、いい試合をしてくれるんじゃないかな」

 

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(写真:榊原実行委員長<左>と高田統括本部長<右>も大きな期待を寄せている)

 女子格闘界屈指のビッグネームを口説き落とすことに成功したRIZIN。榊原実行委員長がその経緯を明かす。

「去年の立ち上げの時から僕としては女子をRIZINの中に取り入れようと思っていた。(山本は)日本のエースとなる可能性ある1人。その時から交渉はしていました。アーセンの出場と合わせて美憂さんとコンタクトを取ることが多かった。その都度、“準備整えてチャレンジしようよ”という話はしていました」

 

 約2カ月後の対戦相手はまだ決まっていない。榊原実行委員長は「いろいろなカードを思い描ける。思い出づくりにくるんじゃない。総合でトップを獲りにいく。話題性を含めてかみ合う戦いを考えていきたい」と話すにとどまった。

 

「オリンピックにチャレンジしたアスリートの中からも転向組の呼び水にもなるんじゃないかなと。他の競技で世界を極めた人がチャレンジしてくる。これはPRIDEの初期のころにもあった。それで段々と市民権を得る。PRIDEのひとつのきっかけは吉田秀彦が舞台に出場したことで今までのコアな格闘技ファン以外の世間一般の人が注目するものに変わっていった。女子の格闘技の裾野を広げる意味でも先駆者たちが積み上げてきたものが一気にビッグバンを起こせるタイミングかもしれない」。榊原実行委員は山本の参戦が女子格闘技隆盛の起爆剤になると期待している。

 

(文・写真/杉浦泰介)