「勝ちパターン」とか「勝利の方程式」と呼ばれる継投策がある。これを確立しているチームは強い、というのが近年の常識だ。

 

 たとえば今年のカープは、7回ブレイディン・ヘーゲンズ、8回ジェイ・ジャクソン、9回中崎翔太。この後ろの3人がきっちり抑えることで、首位を快走してきた。

 

 これから正念場を迎える優勝争いで、一番の問題は、彼らの体力がもつかということだ。なにしろ105試合消化した8月9日の時点で、3人とも登板数が40試合を越えている(最多はジャクソンの49)。

 

 それだけ、接戦を継投で勝ってきた証だから、いたしかたないのだけど。

 

 不安が現実となったのが8月5日の巨人戦である。2-2の同点から、7回のヘーゲンズは抑えて、その裏、ついにカープが3-2とリード。勝利の方程式が、はまるはずだった。ところが、8回ジャクソンが1失点で同点。9回中崎が2失点して痛恨の逆転負け。翌日は黒田博樹も打たれて敗戦。ついに2位巨人に4.5ゲーム差に迫られたのである。

 

 だから、8月7日の巨人戦はカープにとって、まさに剣が峰の一戦だった。負けたら3.5ゲーム差に縮まってしまう。勝てば再び5.5ゲーム差で一息つける。

 

 試合は先発・岡田明丈が3回で故障発生の緊急降板。薮田和樹をはさんで、なんとヘーゲンズが6、7、8の3回を投げたのである(2失点)。

 

 それでも6-7と1点リードを許して、9回裏も2死無走者まで追いつめられた。あと一人。とうとう3.5ゲーム差までつめ寄られたか……。

 

 ここからは、皆さん、よくご存知のシーンでしょう。

 

 巨人の投手は澤村拓一。カープの打者はこの日ここまで4安打の菊池涼介。初球。ややインコース寄りの低目のストレートだった。打った瞬間、それとわかる特大アーチがレフトスタンドに飛んでいく。同点。

 

 あとは流れである。丸佳浩がお約束の四球。そして新井貴浩の打球が左翼手・松本哲也のグラブをすり抜けていく。大逆転サヨナラ勝利。

 

 今シーズン、いろんな節目があったし、これからもあるだろうが、もし優勝したら、まずこのシーンを思い出すのではないか。

 

「神っていた」のは新井である。7回に6-7と1点差に追いあげたのも新井のボテボテのセカンドゴロだった。サヨナラヒットも左翼手正面へのライナーであり、松本に好捕されてもおかしくなかった。それでも結果は2本とも価値ある打点がついた。

 

 ただ忘れてはいけない。新井、菊池、丸の躍動を生み出したのは、ヘーゲンズの3イニングである。

 

 ヘーゲンズは岡田の登録抹消にともなって、先発転向も検討されているという。

 

 ここまでくれば、そういうやり方も必要だろう。しかし、重要なのは、あと1カ月半も残っている、ということだ。

 

 優勝は9月中に決めればよい。今村猛も含めて、この4人の投手を、いかに酷使しながら、状態を維持するか。1カ月半のトータルで考えなくてはならない。

 最後の勝負のポイントは、まさにここだ。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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