カープの主力選手の中で、リーグ優勝を経験している者はひとりもいない。メジャーリーグで7年間に渡って活躍した黒田博樹もドジャース、ヤンキース時代に地区優勝(2008、09、12年)があるだけだ。

 

「本当にプレッシャーがかかるのは、マジックナンバーが点灯してからなんだよ。カープの選手には、その経験がない。お手並み拝見だね」

 そう語ったのは、あるコーチ経験者だ。

 

 8月4日現在、カープは2位・巨人に6.5ゲーム差をつけている。残り試合を考えれば、カープの優位は動かない。

 

 しかし、このチームにはトラウマがある。96年のシーズン、2位・巨人に最大で11.5ゲーム差をつけながら、引っくり返されてしまったのだ。

 

 8月に入ってから調子の上がらないカープ。一方、7月29日から5連勝の巨人。迫りくる足音ほど不気味なものはない。

 

 先のコーチ経験者が、ユニークな意見を口にした。

「カープは無理に全部勝とうとせず、“ここからは5割でいい”と、楽に構えるべきだよ。これだけ貯金があれば充分なんだから……」

 

 そこで早速、シミュレーションしてみた。残り42試合を21勝21敗で乗り切った場合、巨人がカープを上回るには30勝(16敗)が必要となる。6割以上の勝率が求められるのだ。不可能ではないが、簡単ではない。

 

 初優勝した75年は、終盤中日に追い上げられた。「10月15日、後楽園の巨人戦で決めていなかったら、広島で中日戦が残っていた。追い上げてくる中日に勝てるとは思えなかった」と大下剛史は語っていた。難産の末の優勝だったからこそ、広島中が熱狂の渦と化したのである。

 

 25年間も優勝から遠ざかっているチームなのだ。ここから先は茨の道であり、獣道でもある。選手にとってはかけがえのない経験となるだろう。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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