10日(日本時間11日)、男子個人総合決勝が行われた。ロンドン五輪王者の内村航平(コナミスポーツクラブ)が92.365点で優勝。同種目の2連覇は加藤沢男(1968年メキシコシティ五輪、ミュンヘン五輪)以来、史上4人目の快挙となった。2位はオレグ・ベルニャエフ(ウクライナ)が92.266点で、3位にはマックス・ウィットロック(イギリス)が90.641点で入った。加藤凌平(コナミスポーツクラブ)は11位だった。

 

 揺るぎない着地と共に王座は動かない。内村がリオの地でも“キング・オブ・ジムナスト”の称号を譲らなかった。

 

 予選2位で決勝に進んだ内村は、同1位のベルニャエフ、同5位の加藤と共に第1班に入った。第1ローテーションは床運動(ゆか)。内村、加藤が得意とする種目だ。4人目に登場した内村は3回ひねりの着地をほぼ決めて、15.766点という高得点で2位と好スタートを切った。加藤も15.266点で3位につけた。第1ローテーションでトップに立ったのはあん馬を得意とするウィットロック。雄大な足技を披露して15.875点を叩き出した。

 

 続くあん馬では美しい旋回を見せて14.900点をマークした内村。ここでウィットロックを抜いて“定位置”のトップに立った。加藤も内村と同じ14.900点をマークしたが、15.533点を出したベルニャエフに抜かれて4位に落ちた。第3ローテーションでは内村と加藤は14点台と点数は伸びない。ここでも15点台を出したベルニャエフがトップに躍り出た。

 

 前半を終えて内村は3位、加藤は4位。ベルニャエフを追いかける展開となった。第4ローテーションの跳馬で内村は「リ・シャオペン」、加藤は「ロペス」と、団体戦でも披露した高難度の技を実施する。共に着地で若干動いたが、出来栄えを示すEスコアは9点台で15点台の得点を積み上げた。一方、ベルニャエフは15.500点をマークしてトップを譲らない。

 

 首位のベルニャエフと2位の内村との差は0.401点。第5ローテーションは平行棒だ。ベルニャエフは種目別で金を獲れるほどの得意種目である。内村は鉄棒も得意とするため、ここでリードを広げたいところだった。まず演技を実施したのがベルニャエフ。正確で力強い演技で16.100点のハイスコアを叩き出す。加藤は若干のミスがあり14.900点で優勝争いから完全に脱落した。内村は15.600点で演技を終え、76.565点。77.466点のベルニャエフとは0.901点と差は広がった。

 

 2位で迎えた最終種目。先に演技する内村は逆転勝利のためには高得点を出してベルニャエフにプレッシャーをかけたい。ここで見せた内村の演技が圧巻だった。「コバチ」「カッシーナ」と離れ技を次々に繰り出す。その度に会場からは歓声が沸いた。内村がバーを掴む手はいつも以上に力が入っているように映った。フィニッシュは伸身の新月面宙返りの着地をピタッと決めた。寸分の狂いのない着地。王者の意地を見た気がした。

 

 掲示された得点は15.800点――。暫定1位となり、これでベルニャエフとの差は14.899点となった。ベルニャエフは予選で15.133点をマークしており、決して難しい得点ではない。初の金メダルを目指すベルニャエフも堅実に演技を進める。着地が少し動いた。内村との着地の差が明暗を分けた。ベルニャエフの得点は14.800点。わずか0.099差で内村が1位を守った。

 

 逆転での戴冠に内村も頬をほころばせる。世界選手権を含めた世界大会の個人総合は8連覇となった。最後の最後まで諦めず、最高の演技を披露した絶対王者に勝利の女神は微笑んだ。

 

(文/杉浦泰介)