第179回「個人的オリンピック観戦記」
寝不足が続く毎日である。
もちろんリオオリンピック観戦の話。朝起きてダイジェストで振り返るのはもちろんだが、歴史的な瞬間や大事な勝負はライブで観たいという高まりを抑え切れない。ついつい夜中に観てしまうので、つらい朝を迎えることになる。でも、朝のニュースで振り返ると、“あぁそんな瞬間に立ち会えて幸せ”とまたまた夜はTVの前に……。これを繰り返すのである。
ところで、オリンピックを日本で観るのと、海外で観るのとではかなり違うことをご存知か? 私は仕事柄、オリンピックを海外で観る機会が多く、日本との違いに驚かされる。今年も前半戦はコロラドにいたので、アメリカ選手中心の報道を目にした。競泳を見ていても、アメリカ選手中心の構成なので、日本選手が同じ組で泳いでいても紹介すらしないし、メダルを取らないと名前さえ呼ばれない。よく「日本のメディアは日本選手に偏った報道だ」という批判を聞くが、アメリカの報道もまさにその通りなのだ。
体操団体でも、日本選手の演技などを観られることはほとんどなかった。それでも、まだその国の選手が活躍した種目、人気の高い種目はいい。ちゃんと放送してくれるのだから。極端な例では、アメリカにいると柔道がオリンピック種目であることさえ忘れてしまうほどだ。大会映像はおろか、結果の報道さえほとんどない。そういえば、シドニー大会時は現地にいたのだが、あまりにも柔道の報道がないので心配して、新聞を読んだら数行だけリザルトが載っていた。そう、どの国も自国で人気のないスポーツでは放送はもちろん、報道さえされないこともある。
日本にいると、乗馬や近代五種、ボートなどがほとんど放送されないように柔道、レスリング、野球なども極端に分かれる。まあ、そんなバラつきもそれぞれの国の個性ということなのだろう。陸上短距離など人気種目は別としても、全般的には日本で観戦しているオリンピックが、世界中でも同じように観られているとは思わないほうがいい。
「普段は関わらない競技にハマる!?」
個人的な楽しみとして、普段は国内で見ないようなスポーツがある。立場上、エンデュランス系に関わることが多いので、いつもは陸上も、自転車も持久系種目ばかり。しかし、この時ばかりは、陸上短距離や自転車ピスト競技はもちろん、バドミントンや卓球、バスケットボールなど興味深く観戦する。いつもなら目にする機会もないし、もしあってもそこまで興味深く観ることはない。だが、やはりオリンピッックの熱気や、選手のモチベーション、さらにはメディアの情報提供がそうさせるのか、ついつい見入ってしまう。
私は特に今回の卓球の素晴らしさに惹かれており、水谷隼選手たちの男子のスピードと動きのダイナミックさ、女子選手の技術などに感心しきり。いままで卓球を軽んじていたことを反省させられているほどだ。やはりどのスポーツも世界の頂点にいる人たちのプレーは素晴らしい。
だからといって、オリンピック終わっても全ての種目をウオッチし続けるかというとそうでもない。やはり熱が冷めると自分が好きな種目に戻っていくのだろうとは思う。それは時間の経過や趣味趣向として仕方がないこと。だからこそ、オリンピックの時にこそ、いつもは触れないスポーツを観て欲しい。スポーツの見識を広げることができるだろうし、いろいろな選手を観るだけでも面白いはずだ。
そして、選手や関係者たちがこの瞬間のために人生を捧げ、戦っている姿を知るのは人生において刺激になるだろう。これほどのドラマが繰り広げられているのを観ないなんて人生の損失だ!? とかく日本人は観戦スポーツ種目が限定的になりがちなので、ぜひいろいろなスポーツに触れて、その目を養い、感情を刺激してほしいものである。個人的には、卓球に関してはこれからも観ていきたいとは思うけど!?
オリンピックも後半戦に入り、選手たちの命を懸けた戦いが続いている。さらにはその後始まるパラリンピックも見逃せない。彼らの競技に向き合う姿勢は、いつも自身を大いに反省させ、競技に向かう活力になる。
あぁ、まだまだ寝不足は続きそうだ……。
白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。著本に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)などがある。