最下位から抜け出せず、苦戦を強いられている新生ベイスターズにおいて、ひとり番長が元気だ。プロ21年目の三浦大輔である。一昨年は3勝(8敗)、昨年は5勝(6敗)に終わった38歳は今季、既に6勝(4敗)をマーク。プロ通算150勝まで、あと1勝に迫っている。中畑清監督から「大神様」と称賛されるほどの復活劇の陰には、ベテランならでは熟達のワザがあった。その秘密に二宮清純が迫った。
(写真:トレードマークのリーゼントは試合や練習時にはやらない。「“どうしたんだ?”って言われますけど、普段は普通の髪型です(笑)」)
二宮: 今季は、ここまで素晴らしい成績ですね。5月12日の阪神戦(横浜)では、あわやノーヒットノーランかという快投を演じました。
三浦: あの試合は正直、ブルペンでの調子は良くなかったんです。立ち上がりは四球2つでピンチでしたから。そこを乗り切って何とかイニングが進んでいった感じでした。

二宮: もう4回くらいから「ノーヒットノーランを狙います」って宣言していたそうですね(笑)。
三浦: それは昔からです。4、5回までノーヒットだったら、「あと5回だ」ってベンチでは話をしているんですよ(笑)。いつもだったら途中でつかまってしまうんですけど、あの時は9回表までそのまま行けました。

二宮: さすがに、あと3人まで来ると、かなり意識したでしょう?
三浦: マウンドへ上がる時に、球場全体がノーヒットノーランを期待している雰囲気だったので、「これでオレも達成できるのかな」と感じましたね。ただ、先頭の代打・桧山(進次郎)さんに3ボールにしてしまった。あれがすべてでした。点差は2点差でしたし、歩かせて上位打線に回るのが一番よくない。ストライクで勝負せざるを得ない状況になってしまったのが反省点です。

二宮: もし点差に余裕があれば、もう少し際どいところで勝負できたと?
三浦: はい。最終的には桧山さんのヒットからノーヒットノーランどころか勝利すら危なくなってしまいましたからね。頭をよぎったのは昨年のマエケン(広島・前田健太)。神宮でノーヒットノーラン寸前からサヨナラ負けをした。それを考えてしまって、「これで負けたらシャレにならん」と必死でしたよ(苦笑)。

二宮: 何より勝ててホッとしたと?
三浦: 最後は1点取られましたけど、ひとりで投げ切って勝てたので本当に良かったです。

二宮: この試合でもそうでしたが、三浦さんは立ち上がりが悪くても、修正して試合をつくるケースが多いですね。長年の経験から立て直すコツをつかんでいるように感じます。
三浦: シーズン中に絶好調と思える試合なんて、2、3回しかありません。それ以外は「今日はここがちょっとイマイチ」と感じることがほとんどです。それでも試合はどんどん進んでいくから投げるしかない。タイミングを変えたり、足の上げ方を変えたり、腕の振りを変えたり、いろいろやっています。感覚の問題なので、見た目には分からないでしょうが。だから若い選手には、いつもこう言っているんです。「引き出しは多ければ多いほどいい」って。ここが悪ければ、こうする、あそこが悪ければ、ああするというポイントはたくさんあったほうがマウンドでは役立つんです。

二宮: 一流選手にプロで生き残る条件を聞くと、「引き出しの多さ」を挙げる人が多いですね。「これが自分のやり方だ」とひとつの方法にこだわる選手は長く活躍できない。
三浦: コーチから教わったことで、その時は自分に合わないものもあるでしょう。だからと言って、捨ててしまうのではなく、引き出しの中にしまっておく。それがもしかしたら3年後、5年後には必要になることもあるかもしれません。

二宮: どんなに勝てる投手でも「立ち上がりは難しい」と聞きます。立ち上がりで調子が悪かった場合は、どのように修正をかけるのですか?
三浦: まずマウンドの特徴を早くつかんで慣れることが大事ですね。いくら何度も投げているホーム球場でも、その日の雰囲気とか気象条件によってマウンド状態は異なります。よく立ち上がりが悪い投手に「もっとブルペンで投げ込めばいい」という人がいますが、やっぱりマウンドに上がらないと、こればかりは分からないものです。

二宮: では、マウンドに合わせて投げながらフォームを微調整していくと?
三浦: 踏み出す位置を微妙に変えたりしますね。たとえばアウトコースにコントロールしづらいと感じた時は、踏み込んだ時につま先をちょっと投げたい方向に滑らせる。足をずらしやすいようにマウンドを試合中にスパイクで掘ることもあります。

二宮: それはプロならではのテクニックですね。
三浦: 他にも「今日はシュートがキレないな」と思ったら、ほんのちょっとだけ軸足を一塁方向にずらしたり、いろいろやっています。大事なのは最後まであきらめないことです。投げている限り、とにかく失点を1点でも少なくする。もし4、5点取られてしまっても、次の1点はやらない。もしかしたら、そこで踏ん張ったことで、味方が逆転して勝てるかもしれないですから。「交代」と言われるまでは絶対に気持ちを切らしてはいけないんです。

二宮: テクニックに加え、そういった執念が衰えていないのが、勝ち続けられる要因でしょう。
三浦: だってマウンドに上がったら、どんな試合だって勝ちたいですよ。よく「今日は大事な試合ですね」って聞いてくる人がいますけど、僕にとっては優勝がかかった試合だろうが、消化試合だろうが、全部大事なんです。マウンドに上がった以上は、バッターに打たれたくはないし、勝ちたい。その一心でここまでやってきました。

二宮: 残念ながらチームはこのところ低迷し、負けグセがついてしまっている感が否めません。まず、そこから払拭したいと?
三浦: やっぱり自分が投げて、勝って試合終了の瞬間を迎えるのは最高ですよ。その時にマウンドに立っていたら、なお気分がいい。常に僕は完全試合をして勝つつもりでマウンドに上がっています。

二宮: ということは27個のアウトを逆算してゲームプランを考えていると?
三浦: 27個というよりも3回ずつに区切って考えるようにしていますね。3回を3セットで1試合という感覚です。6回まで投げ切れば、2セットが終わって残り1セット。それを目安にしながらピッチングも修正していきます。1打席目、2打席目の状況を見て、同じように投げればいいのか、裏をかけばいいのか。キャッチャーと相談しながら決めていきます。

二宮: 「修正力」が必要とされるのは、試合の中だけでありません。登板と登板の間にも次に備えて修正の必要なケースが出てくると思います。その点もかなり気を使っているのでは?
三浦: まずケガをすることが一番良くないので、体のケアにかける時間は年々、増えていますね。試合前の練習は早めに来てランニングするようにしていますし、朝も散歩をして徐々に体を動かすように心がけています。

二宮: もう、それが日課になっているわけですね。
三浦: 遠征先でもホテルの周りを散歩したり、走ったり、ずっと変えずに続けています。遠征先だと名古屋、大阪、広島とお城がいい目印になるので、そこまで走って写真を撮ってブログに載せていました。

二宮: 一部のファンには城マニアだと思われているようですよ(笑)
三浦: それは違います(笑)。どの遠征先も、城まで走るとちょうどいい距離なんで、よく行くだけです。正直、城にはあまり興味がない……(苦笑)。
(写真:矢沢永吉の大ファン。年末の武道館コンサートには最近は息子を連れていくようになった)


※『週刊現代』に掲載された三浦投手に関する特集記事の全文が、スポーツポータルサイト「Sportsプレミア」に掲載されています。こちらも合わせてご覧ください。下のバナーをクリック!