いよいよ男女サッカー日本代表が、五輪に臨むオールジャパン(日本選手団)の先陣を切る。グループリーグ初戦は女子が25日(日本時間25:00〜)にカナダ戦、男子は26日(22:45〜)にスペイン戦を迎える。女子は史上初、男子は1968年のメキシコ大会以来のメダル獲得を目指し、短くも熱き戦いに突入する。
 なでしこは華麗かつ強引に

 なでしこジャパン(日本女子代表)は前人未踏のW杯と五輪の連続優勝に挑む。
昨年のW杯を制した後、危なげなくアジア予選を突破。さらに今年2月のアルガルベ杯では、FIFAランキング1位の米国から初めて90分間で勝利するなど、着実にレベルアップを果たしてきた。国内最終戦となった11日のオーストラリア戦では、良性発作性頭位めまい症で代表から離れていたMF澤穂希(INAC神戸)が復活のゴールをあげ、3−0の快勝。再び世界一の歓喜へ、これ以上ない結果と内容で日本を出発した。

 ところが、五輪前最後の実戦となったフランス戦(同6位、パリ)では0−2の完敗。同国とは決勝トーナメントで対戦する可能性もあるだけに、メダル獲得に向けて不安を残した。
 
 ただ、フランス戦の敗因は明確だった。自分たちのリズムを見失ったことである。試合開始から相手にコンパクトな守りで攻撃のスペースを消された。そのため、中盤でパスコースを探すうちにプレッシャーをかけられ、ボールを失って攻撃につなげられない悪循環に陥った。五輪本番でも、対戦相手がフランスのような戦法をとってくることが予想される。MF川澄奈穂美(INAC神戸)はフランス戦後、「アタッキングサードでの崩しのアイデアだったり、もっとシュートに向かう姿勢が必要」と課題をあげている。

 川澄の言うように、なでしこに求められるのは華麗かつ強引にゴールへ迫るサッカーだ。MF宮間あや(岡山湯郷)やMF阪口夢穂(日テレ)といったパサーが流れるように攻撃を組み立て、FW大儀見優季(ポツダム)や川澄などが時にドリブルで思い切って仕掛ける。加えて気候を味方につけることも大切だ。現地は雨天が多く、ピッチが濡れてスリッピーな状態での試合も予想される。その場合は、ミドルシュートも有効な武器となるだろう。

 第3戦までにGL突破を

 不安を残して本番を迎えるなでしこだが、組み合わせには恵まれている。グループFの日本(同3位)は初戦(25日)でカナダ(同7位)、2戦目(28日)にスウェーデン(同4位)、3戦目(31日)は南アフリカ(同61位)と対戦。グループ2位以内なら自動的に決勝トーナメントに進出でき、3位でも勝ち点次第では突破できる。さらにGLを2位以内で突破すれば、グループGの米国(同1位)、グループEのブラジル(同5位)がそれぞれ1位で突破した場合、両国と決勝まで当たらない。まずはメダル獲得を狙う上で五輪連覇中の米国や、2大会連続準優勝のブラジルと最後まで対戦を回避できるのは幸運だ。

 初戦で当たるカナダとの通算対戦成績は3勝3敗3分けとまったくの五分。先日行われた米国(同1位)との親善試合では1−2と接戦を演じるなど、地力はある。身長175センチのFWクリスティン・シンクレアを筆頭に、高さとパワーを生かした攻撃を仕掛けてくるだろう。ただ、テクニックとスピード、俊敏性ではなでしこが1枚上手。セカンドボールを確実に拾ってポゼッションを高められれば、勝ち点3を得ることは難しくないだろう。

 グループ最大のライバルはスウェーデンだが、日本は昨年のW杯準決勝で3−1と完勝を収めている。6月の親善試合でも勝利しており、順当にいけば勝ち点3を獲得できるはずだ。ただ、要注意なのがエースFWのロッタ・シェリン。2年連続欧州王者となったリヨンの中心選手で、スピードと技術の高さは世界屈指だ。エースを波に乗せてしまえば、足元をすくわれる危険性もあり得る。なでしこ守備陣はシェリンに仕事をさせないことに集中したい。

 第3戦の南アフリカとは過去に対戦経験がなく、その実力は未知数だ。アフリカ特有の高い身体能力を生かしたサッカーを展開してくることが予想される。五輪は決勝戦まで、すべての試合が中2日で行われる強行軍。なでしことしては、第3戦までにGL突破を確定させ、主力を温存するなどの余裕を持ちたいところだ。

 男子はスペイン戦次第

 一方、男子のU-23日本代表は本番が近づくに連れて調子を上げている。英国入りしてからの強化試合(同ベラルーシ戦、同メキシコ戦)に連勝。初戦に弾みをつけた。

 5大会連続出場の日本は、同スペイン(欧州1位)、同モロッコ(アフリカ2位)、同ホンジュラス(北中米カリブ海2位)と同じグループDに入った。2位以内であれば、決勝トーナメントに進出できる。

 最大のヤマ場は何と言っても初戦のスペイン戦だ。同国A代表は10年南アフリカW杯、先の欧州選手権(EURO)で優勝し、世界一の名を欲しいままにしている。五輪代表も昨年のU-21欧州選手権を制するなど、金メダル最右翼だ。今大会の最強チーム相手に互角の戦いができれば、その後の戦いに自信と勢いを得られる。

 スペインの特徴は代名詞であるポゼッションサッカーをベースに、タテに速い展開から相手の牙城を崩す。その中軸を担うのが、MFフアン・マタ。オーバーエージ(OA)枠で出場する24歳は、南アW杯、EURO2012の優勝メンバーであり、昨季は所属するチェルシーでも欧州王者に輝いた。彼を一言で評すれば、まさに万能型プレーヤー。ドリブルよし、パスよし、シュートよし、さらにセットプレーもできる。彼を自由にさせてしまっては、日本が勝ち点を奪うのは難しいだろう。スペインにボールを支配される展開が想定されるなか、守りのほころびは致命傷になる。

 日本にとっては、押し込まれながらも無失点で耐え、やってくる少ないチャンスを確実にモノにすることが理想だ。“仮想スペイン”として対戦した先日のメキシコ戦では、開始早々に先制点を奪った後、ボールを支配され、同点に追いつかれた。だが、その後はGK権田修一(FC東京)を中心とした守備陣が粘り強く対応して得点を許さず、終了直前の勝ち越しゴールにつなげた。このメキシコ戦のような戦いで勝ち点獲得を目指したい。

 続く第2戦のモロッコ、3試合目のホンジュラスも一筋縄ではいかない相手だ。モロッコは18人中16人が欧州のクラブでプレーするなど、個々の能力が高い。ホンジュラスは遠めからでも積極的にシュートを狙うなど、攻撃的なサッカーを得意としている。だが当然、実力はスペインより落ちることは確実だ。日本としては、パスミスなどから自滅することだけは避けたい。落ち着いてボールを支配すれば決勝トーナメント進出が確実な勝ち点6を稼ぐことはそう難しくないだろう。

 五輪は14年ブラジルW杯を目指す選手たちにとって、世界のレベルを体感できる貴重な機会となる。前回の北京大会ではDF長友佑都(インテル)やMF香川真司(マンU)をはじめ、今大会にOAとして参加するDF吉田麻也(VVV)ら現A代表の主力選手が五輪を経てステップアップを果たした。今回の五輪戦士から、何人がロンドン経由ブラジル行きを実現するのか。ヤングブルーの戦いは今後の日本サッカーを占うものにもなるはずだ。

●グループリーグ スケジュール

【女子】

・第1戦(7月25日)
日本女子代表 × カナダ女子代表(コベントリー、25:00〜、NHK-BS1)

・第2戦(同28日)
日本女子代表 × スウェーデン女子代表(コベントリー、20:00〜、NHK総合)

・第3戦(同31日)
日本女子代表 × 南アフリカ女子代表(カーディフ、22:30〜、NHK-BS1)

【男子】

・第1戦(7月26日)
U-23日本代表 × U-23スペイン代表(グラスゴー、22:45〜、NHK総合)

・第2戦(同29日)
U-23日本代表 × U-23モロッコ代表(ニューカッスル、25:00〜、NHK-BS1)

・第3戦(8月1日)
U-23日本代表 × U-23ホンジュラス代表(コベントリー、25:00〜、NHK総合)

※試合日時はすべて日本時間