160920adidas1 バスケットボールの本場アメリカで研鑽を積む日本の若者がいる。今年からアメリカ・マサチューセッツ州ノースフィールド・マウント・ハーマン校に通うテーブス海選手だ。同校は昨年度のNEPSACリーグ王者。高校2年で海を渡ったテーブス選手は、着実にステップアップを遂げている。ポジションはポイントガード。adidasがポイントガード(PG)のために開発したシューズ『adizero PG』を“相棒”に日々、屈強な外国人たちと渡り合っている。渡米2年目を迎えるテーブス選手のPG観に、二宮清純が迫る――。

 

 

 ポイントガードのためのシューズ

 

二宮: テーブス選手が使用している『adizero PG』はPGのために作られたシューズだとお聞きしました。実際に履いてみて感じる利点というのは?

テーブス: たくさんあると思うんですが、やはりこのシューズの特長はハイカットなのにすごく軽いところです。ハイカットは普通、ローカットより重いと思われがちですが、『adizero PG』は軽くて、ポイントガードにとても合っているシューズなんです。履き易さも抜群で、自分はこれを履いていると、すごく足が軽くてスピードも出しやすいと感じます。

 

二宮: ハイカットにしている分、重くなるはずなのに、それを感じさせないと。

テーブス: はい。そしてハイカットの利点は足首のサポートによって捻挫がしにくいということです。その長所は残しながら、軽いというのが本当にユニークだと思います。

 

二宮: まさに一石二鳥ですね。アッパー部分はメッシュ素材になっているんですね。

テーブス: はい。通気性も十分です。

 

二宮: バスケットボールではポジションによってシューズの形状も違うのでしょうか?

テーブス: そうですね。PGはローカットを履く人が多いと思います。『adizero PG』はローカットではないのですが、ハイカットの利点を生かしたまま、履きやすくて軽いシューズです。

 

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(写真:踵部分の構造は、よりフィットしやすいようにラウンド状になっている)

二宮: PGは動いたり、止まったりと、様々な動きが要求されるポジションですよね。

テーブス: 試合中は一番動くと思います。その点で『adizero PG』はソールのグリップがすごく良くて、止まりやすいです。PGとしては、完全に止まったり、急に動き出したりを繰り返しますから、とてもいいです。それにただ軽いだけじゃなくて、接触にも十分耐えられる強さもとある思います。

 

二宮: 渡米して2年目になりますが、やはり接触プレーは激しいですか?

テーブス: そうですね。最初に行ったばかりの頃は当たり負けする時もありました。それでいっぱいウエイトトレーニングとかをやらされていたのですが、体が大きくなってくると接触プレーからも逃げなくなった気がします。徐々に慣れてくると思うので。それもプレーに現れたんじゃないかなって感じます。

 

二宮: なるほどね。NBAのプレーを観ていると、ファウルの仕方も上手です。時には審判の死角を突いたりね。

テーブス: もし、それをやられたとしても、点を取らないといけません。

 

二宮: 反則スレスレのプレーをかいくぐりながら、ケガをしないようにやらないといけないですね。チームメイトとはロッカールームで言い合いをしたりすることはありますか?

テーブス: 外国の選手は遠慮せずに言い合うので、僕も言い返すことがあります。自分の意見はちゃんと言いますね。

 

 己のスタイルを曲げない

 

二宮: 今後、磨きをかけたい部分はどこですか?

テーブス: 全部ですね。シュートもドリブルも、体のつくり方も。来年になったときにまた一段と上がったなって言えるようになりたい。今はこれをやりたいというより、全部磨いていきたいです。

 

二宮: 将来は大学に進学して、NBAへ?

テーブス: NBAはもちろん考えていますが、もしかしたらヨーロッパへ行くのも選択肢のひとつですし、日本に帰ってB.LEAGUEでやることも考えています。

 

二宮: お父さんのBTテーブスさんはB1リーグ・サンロッカーズ渋谷のヘッドコーチです。もし、“来い”と言われたら断れないんじゃないですか(笑)。

テーブス: ハハハ。それよりは父と違うチームに行って、どうせだったら勝ちたいですね。

 

二宮: バスケットボールを始めたのは、やはりお父さんの影響もあったのでしょうか?

テーブス: そうですね。でも父がプロのバスケ選手だから、やり始めたわけではないです。最初、僕はサッカーをしていました。父は僕に無理矢理バスケをやらせる感じではなく、自分がやりたいスポーツをやって欲しいという思いがあったそうなんです。僕がバスケをやり始めたときに、父は喜んでいたと思います。そこからはいろいろ教えてくれるようになりました。

 

二宮: お父さんからはどんなアドバイスを?

テーブス: 昔からずっと試合を観てきて、僕の試合が終わったときにもいろいろ話すんです。今だとアメリカに行っても、学校、監督とか環境が変わっても自分のスタイルを変えずにやっていきなさいと言われますね。あとは試合中にミスをすると、監督に怒鳴られるときがあるんですが、怒られたからといって自分のプレーを変えたり、ミスをしないような安全なプレーをしないようにと言われます。“ミスしても気にせず、自分のプレーでそのままアタックしろ”と。

 

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(写真:気持ちをすぐに切り替えることはアメリカで学んだ)

二宮: 攻守の切り替えも早くて、ワンプレーワンプレーに反省している時間はないですもんね。

テーブス: 落ち込んでいたら、あっという間に時間が過ぎて試合が終わってしまいますね。

 

二宮: スタイルは変えないとおっしゃっていましたが、アメリカに行ってから変えたことはありますか?

テーブス: 日本でやっていたときは、チームで得点を取る人があまりいなかったので、得点を取ることに重きを置いていました。アメリカに渡ってからは、もっとPGらしく多くのパスをさばくようになりました。

 

二宮: 得点へのこだわりは日本にいたときよりも抑えていると。

テーブス: そうですね。日本であれだけ得点を取ったからこそ、それをうまく使ってPGの仕事ができたのかなと思うんです。僕が理想としているのは、スリーポイントも決められる、ミドルレンジでのジャンプシュート、ドライブしてリングに迫るプレーもできることです。その3つのエリアで点を決められるようじゃないと、守る側に選択肢を1つか2つ消されて絞られてしまう。逆にその3つのエリアで得点を奪うことができるなら、ディフェンスも読みにくくなると思うんです。

 

 “相手を倒す”という気概

 

二宮: 精神面で気を付けていることはありますか?

テーブス: やはり向こうの選手はみんな気が強くて積極的です。それに負けず、自分から攻めていく。相手を待ち構えるんじゃなくて、試合開始してからすぐに自分のマッチアップを倒すメンタリティーでやっていますね。

 

二宮: NBAでもマッチアップした相手に顔をくっつけて睨み付けるようなシーンも見受けられます。

テーブス: そうやって試合開始から、どちらかがアタックしないと。

 

二宮: 試合前に挑発してくる選手もいますか?

テーブス: はい。「今日、オマエをゼロ点に抑えるからな」という感じで言ってきますね。それがまた発奮材料になって、楽しいです。僕も言い返すときもあれば、ただ単にプレーで相手にやり返すときもあります。

 

二宮: 言い返すと、向こうの挑発に乗っちゃうことになりますからね。とはいえ、なめられっぱなしでもいけない。

テーブス: 結局はプレーで勝たないといけませんからね。

 

二宮: テーブス選手が“口撃”を仕掛けることは?

テーブス: たまにありますね。例えば、マークについている相手のシュートをブロックすると、「I can read. I know watch what you do.(読んでるよ、読めているよ)」と言ったりもしますね。もし「そんなことはない」と言い返そうとしても、実際はブロックしちゃっているので、相手は何も言えないじゃないですか。

 

二宮: なるほど。

テーブス: あとは僕がオフェンスで、シュートを打ったときに入る前から、「あ、これ入った」と言ったら、相手はショックを受けますね。あまりいいことではないのですが……。

 

 攻めの姿勢を貫く

 

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(写真:プレー動画を見ながら、自身のプレーを解説するテーブス選手)

二宮: アメリカは皆、自己主張が強そうですね。

テーブス: そうですね。それがメインですね。“オレが、オレが”という姿勢は悪く聞こえますが、それがまたいいところなんじゃないかなと思うんです。まずは自分ができることをやる。でも、やっぱり日本でやっていたフォア・ザ・チームの姿勢も大事です。“チームとして勝つ”。そういう意識はアメリカに行っても、日本でやっていて良かったなと感じました。

 

二宮: そういうものが日本で身に付いていたからこそ、アメリカで自分が何をやるべきかが明確に見えたんですね。そういうチームへの忠誠心みたいなものはヘッドコーチからも評価される材料に?

テーブス: それはありますね。コートに立つと、ある程度チームメイトのみんなをまとめる役割をやっていました。それは日本でそういう役割を務めていたからこそ、アメリカに行っても通用したのではないかなと思います。

 

二宮: 若いときからアメリカに行った方がいいという考えもあれば、ある程度の実力を付けてから挑戦すべきとの意見もある。テーブス選手はどう思われますか?

テーブス: どちらにもいいところと悪いところがあると思いますが、結局は行ってからどれだけ早く環境に慣れるかだと。

 

二宮: コーチのやり方に合うか合わないかもありますよね。テーブス選手はどうでした?

テーブス: 僕の場合は完璧に合ったわけではありません。ちょっと合わなかったとしても、自分のプレーを出せるようになったと思います。入ったばかりのころは監督とも意見が合わないとか、思っていた役割と違うこともありました。でも最終的にはそれをあまり気にせず、自分のプレーを出せたと。

 

二宮: 考え方の違いにもギャップがあったと。

テーブス: はい。そこに慣れるのにも時間がかかりました。ただ僕は父がカナダ人ということもあってコミュニケーションにはそんなに困らなかった。もし“言葉の壁”があったとしたら、もっと苦労していたかもしれない。そう考えると、早めに行くのもいいんじゃないかなとは思いますね。

 

二宮: 4年後には東京でオリンピックがあります。テーブス選手自身ではバスケットボールの人生計画は、何歳まで現役でプレーしたいと考えていますか?

テーブス: ケガとか人生は何があるかわからないですけど、できれば35歳くらいまではやりたいですね。一応、今は2020年のオリンピックが一番の目標です。

 

二宮: 自分が入って、“日本代表のここを変えたい”というイメージはありますか?

テーブス: 日本代表のPGは司令塔をメインにやる傾向にあるんですよ。もし僕がやるとしたら、PGから点をガンガン取りに行って、積極的にアタックしていく。そうすることで相手のマークが寄ってくるので、そこからチームメイトを活かせればいいと思います。

 

二宮: なるほど。自分のところに集めておいて、ボールを散らしていくと。

テーブス: そうなるとマークするディフェンスも「コイツ、何をするんだ?」と読めなくなる。最初からパスばかりしていると、「コイツは自分では攻めてこないんだな」と思われてしまう。まずは強気に攻めの姿勢でいきますね。

 

160920adidaspfテーブス海(てーぶす・かい)プロフィール>

1998年9月17日、兵庫県生まれ。カナダ人の父と日本人の母のハーフとして生まれ、高校は日本バスケの名門校・東洋大学京北高に進む。1年時から2年連続でインターハイに出場。2013年にはU-17日本代表チームのメンバーにも選出され、現在はU-18日本代表にも選ばれている。2015年夏に単身渡米。ブリッジトン・アカデミー校で活躍し、今年から昨年度NEPSACリーグチャンピオンのノースフィールド・マウント・ハーマン校に転入した。スピードに溢れ、スキルフルなポイントガード。加えて得点力も高い。身長186センチ、体重83キロ。

 

(構成・写真/杉浦泰介 プロフィール写真/adidas)


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