JX-ENEOS・宮澤、強気に打ち込むシューター ~バスケットボール~
V9に向けて視界良好だ。Wリーグ(バスケットボール女子日本リーグ)8連覇中のJX‐ENEOSサンフラワーズは、開幕から10連勝と順調に白星を重ねている。チームの得点源として機能しているのが、5年目のフォワード(F)宮澤夕貴だ。リオデジャネイロ五輪代表の彼女だが、今シーズンは覚醒した観がある。面白いように決まるスリーポイント(3P)。宮澤がシューターとして目覚めたきっかけはなんだったのか。
まるで別人だった――。10月7日の富士通レッドウェーブとの開幕戦で宮澤はチームトップの22得点を挙げた。そのほかにも6リバウンド、3アシスト、2スティール、3ブロックと獅子奮迅の活躍。約38分のプレーイングタイムでオールラウンドな仕事ぶりである。
驚きなのはこれらの数字だけではない。それは宮澤のプレーエリアだった。彼女はこの日、3Pを12本中6本も沈めた。182センチの長身、長い手足を生かしたインサイドでのプレーやミドルレンジからジャンプショットは以前から得意としていた。だが、3Pシュートとなると話は別だ。過去4シーズンのスタッツを見てもほとんど打ってすらない。宮澤自身も「自分のシュートエリアじゃなかった」と口にするほどだ。
彼女は以降もコンスタントに得点を重ねた。10月28日の羽田ヴィッキーズ戦ではエースの渡嘉敷来夢が欠場する中、宮澤がチームのスコアラーとなった。攻守に躍動し、シュートは内も外もとゴールを量産する。第1クォーターだけで22得点。出足から29点差と羽田を突き放す。宮澤は合計25得点、13リバウンド、2アシスト、3スティール、2ブロックの活躍でチームの100点ゲームに貢献した。
11月5日現在のスタッツは1試合平均17.3得点はリーグ7位、同8.5リバウンドと同1.8ブロックはともにリーグ4位。40.0%の3P成功率はリーグ5位タイにつけている。いずれもキャリアハイを更新しそうな勢いである。今シーズンからヘッドコーチ(HC)を務めるトム・ホーバスは宮澤の好調に「驚きはない」と言い切る。彼女のポテンシャルを「いいところはいっぱいある。今は3Pがある。手が長いからリバウンドも取れるし、インサイドでも勝負できる。ディフェンスも成長した。でも、これからもっと上手くなる」と高く評価する。
覚醒のきっかけとなった代表活動
ホーバスHCは覚醒のきっかけはアカツキファイブ(日本代表の愛称)での経験が大きかったのでは見る。特にリオデジャネイロ五輪で掴んだものは大きかったと。ホーバスHCは代表コーチとして現地に帯同していた。
「プレータイムはあまりなかったけど、練習中にもいいプレーがあった。そこから自信を持ったと思う。強い相手と戦うことができた経験も大きかった。帰国してからは、さらにいいプレーを見せたかったんだと思います」
宮澤自身はシューターとして“進化”した経緯をこう語る。
「3Pは去年のリーグの後半から練習で打ち始めてはいたんですが、ミドルシュートが入らなくなってなかなか自信が持てなかった。でも今年の日本代表の国内合宿でシューティング練習をしたんです。山本(千夏)さん、篠崎(澪)さん、(長岡)萌映子、近藤(楓)さんと一緒にやって、その人たちのシュートを見て、“こうやって打てばいいんだ”とタイミングなどを掴めたんです。そこから練習を重ねていくうちに入るようになって、自信を持てるようになりました」
ウエイトトレーニングも精力的にこなし、フィジカルも強化した。それにより「フォームも安定した」という。好調の原因には精神面の変化もあった。「攻める気持ちが去年とは全然違う。去年ダメだった分、今シーズンにかける思いは強いです。数字的にも納得はしていませんが、それ以上に自分でダメだと思い込んでいた。試合を見たら、そんなにダメじゃないときもあったのに自分で落ちていました」。確かに宮澤のプレーには迷いがないように映る。「空いたら打て」と積極的に3Pを指示するホーブスHCの戦術もマッチしたのだろう。
ホーブスHCは「彼女はまだまだ。僕は宮澤に厳しいよ」と笑顔で言う。それだけ宮澤に対し、“もっと強くなれる”との期待を寄せている証拠だろう。「今シーズンは得点にこだわる」と宮澤。チームには渡嘉敷、間宮佑圭というアカツキファイブのスコアラーがいるが、「タク(渡嘉敷)さんとメイ(間宮)さんに寄るのは当たり前。そこで自分が外で決めていければ、JXのバスケットはもっと強くなる。あとはリバウンドも頑張りたいと思います」と、自らの役割を考える。シューターとしての仕事を全うしつつ、インサイドでも力を発揮したい。その言葉に強い意志をにじませた。
「東京オリンピックの頃にはスタートで出られるようになりたい」
リオを経て、心身ともに強くなった宮澤。更なる飛躍を誓った。
<宮澤夕貴(みやざわ・ゆき)プロフィール>
1993年6月2日、神奈川県生まれ。小学1年でバスケットボールを始める。岡津小、岡津中を経て金沢総合高に進む。金沢総合では1年時から出場し、全国高校総合体育大会(インターハイ)で2年連続3位を経験。U-16、U-17などアンダー世代の日本代表にも選ばれた。3年時には主将を務め、インターハイ優勝に貢献した。高校卒業後はJXサンフラワーズ(現JX-ENEOSサンフラーズ)に入団。3年目でWリーグベスト5を受賞した。13年から日本代表候補に選出されるなど、多くの国際大会を経験した。リオデジャネイロ五輪代表。ポジションはフォワード。身長182センチ。背番号は52。
(文・写真/杉浦泰介)