この夏の甲子園は大阪桐蔭の春夏連覇で幕を閉じた。今大会、準々決勝で敗れたものの、一躍スターとなったのが、桐光学園(神奈川)の松井裕樹(2年)である。初戦で大会新記録となる10連続を含む22個の三振を奪うと、4試合で史上3位となる通算68奪三振を記録した。この大会奪三振記録のレコードホルダーは板東英二(徳島商、83個)だが、史上2位の記録を持つのが現在、北海道日本ハムの斎藤佑樹(78個)である。あのハンカチ王子フィーバーを巻き起こした夏から6年。今、斎藤は1軍で結果を残せず、2軍暮らしを余儀なくされている。そんな彼に二宮清純がオールスター前にインタビューを行った。その一部を紹介する。
(写真:「栗山監督には高校生の時から取材で見てもらっている。何としても期待に応えたい」と力強く語る)
二宮: 前半戦が終わって5勝7敗。黒星が先行していますが、ローテーションは守っています。ご自身の感想は?
斎藤: 正直言うと情けない……。

二宮: 負けが続くと、落ち込むこともあるでしょう。ピッチャーにとって最大の良薬は勝ち星だと言います。
斎藤: 本当にそのとおりです。悪いピッチングをしても勝てば、それが帳消しにされる感じがあります。それでも昨年と比べれば、いい感じで投げられてはいるんです。しかし、それが勝ち星につながるかとなると、また別の話で……。

二宮: 7月13日の東北楽天戦で高校時代からのライバルである田中将大と投げ合い、6回5失点で負け投手になりました。試合後「ほんのちょっとのところだと思う」と語っていました。
斎藤: そうなんです。この“ちょっと”ができれば、結構いいところまでいくと思うんです。今はそれができない歯がゆさがあります。

二宮: それは時間が解決するものでしょうか。それとも経験?
斎藤: ウーン、経験でしょうね。実は楽天戦の後、なんとなく観たくなって、甲子園でのピッチングを久しぶりに観たんです。決勝の再試合(2006年夏、早稲田実業高―駒大苫小牧高、4対3で早実優勝)です。

二宮: マー君(田中)と投げ合った伝説の試合ですが、6年前の斎藤佑樹はどうでしたか?
斎藤: やっぱり、18歳としてはすごいですよね(笑)。本当にすごいピッチャーだった。

二宮: すごいと言っても自分のことですよ(笑)。客観的に見て、どこが?
斎藤: 何がすごいって、適当なところ。もう本当に適当すぎる(笑)。簡単にストライク取って、バッターを打ち取るパターンなんて、全部、一緒なんですよ。

二宮: 早いカウントで追い込んで、最後は外のスライダー。
斎藤: そうなんです。それなのに、なぜか打たれない。最強の18歳だな、と思いましたね。

二宮: 怖いもの知らずだった?
斎藤: 決勝の最初の試合は、ある程度、慎重に投げているんですが、それで打たれないという感触がつかめた。再試合は“これだけ疲れているんだから、もういいでしょ。別にどんなピッチングしたって誰も何も言わないでほしい”という感じで投げているんです。今はその適当さは出しにくくなっている感じがありますね。
(写真:「大学時代はフォームで悩んでいて、バッターとの勝負ができなかった。今はそこでは苦しんでいない」と話す)

二宮: その頃に戻りたいですか? 最強の18歳の頃に?
斎藤: いや、戻りたいとは思わないです。ただ、やり直したいとは……。

<現在発売中の『文藝春秋』2012年9月号では斎藤投手のロングインタビューが掲載されています。こちらも併せてご覧ください>