二宮: 長官ご自身は空手をされていたそうですね。

: はい、そうなんです。

 

二宮: 空手人口は、実は世界には非常に多いんですよね。

: はい。現在、日本国内は約300万人、世界では愛好者を含めますと、165カ国4000万人と言われています。

 

伊藤: 空手は2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロと、2大会連続でオリンピック競技の最終候補に残りましたが、残念ながらいずれも落選してしまいました。

: いやいや、まだこれからだと思っています。実は6月に自民党所属の国会議員で「空手道推進議員連盟」を設立したんです。私がその会長に就任いたしましたので、今後はさらに強力な運動を展開したいと思っています。

 

 開催地に求められる発信力

二宮: さて、2020年東京オリンピック・パラリンピックの成功というのは、ほとんどの日本人のコンセンサスになっていると思います。しかし、その反面、2020年がゴールだと思っている人も少なくないのではないでしょうか。2020年はあくまでも通過点であって、終着点ではありません。

: おっしゃる通りだと思いますね。私は、2020年東京オリンピック・パラリンピックは、日本のスポーツ振興の出発点と考えるべきだと思います。


二宮: 2020年の成功に向かって頑張るのはいいことですが、オリンピック・パラリンピックが終わったと同時に、燃え尽き症候群のようになってしまっては元も子もない。オリンピック・パラリンピックの開催を通して、さらにそこから日本のスポーツ振興を広げていくことこそが重要です。

伊藤: 特にパラリンピックを自国で開催することで、障がい者スポーツを「文化」へと引き上げていきたいですね。

: 現代は世界的に少子化、高齢化、環境問題など、さまざまな課題がつきつけられています。そんな中で開催するオリンピック・パラリンピックは、その場限りではなく、次の世代へとつなげていけるようなものにしなければいけません。今後のあるべき姿を示し、そこから将来に向けてスタートする。こういうことが大事だと思います。

 

伊藤: よりよい社会を生み出す活力になると。

: はい、そうです。というのも、オリンピック・パラリンピックは、競技大会という以前に、ひとつの文化であるわけです。より豊かでより快適な社会の姿を、世界へ発信する。これもまた、オリンピック・パラリンピックの開催国・都市に求められているのだと思います。

 

二宮: 菅長官が考える、2020年東京オリンピック・パラリンピックで残したいレガシー(遺産)とは何でしょうか。

: 今、改めて1964年の東京オリンピックを振り返ってみると、当時の日本はオリンピックを開催するということだけで、精一杯だったと思うんです。日本がひとつになって、何とか最終日まで乗り切ろうと。それ以上のことを考える余裕はおそらくなかったはずです。しかし今は、先進国のひとつとして、成熟した社会が築かれている。ですから今度の2020年は、日本だけでなく、世界全体を視野に入れた大会としなければなりません。世界がひとつになって助け合い、新しい時代を切り拓いていく。そのきっかけにしてほしいなと思います。


(おわり)

 

菅義偉(すが・よしひで)プロフィール>
1948年12月、秋田県生まれ、法政大学法学部卒業後、代議士秘書、横浜市議を経て、96年に衆議院選挙で初当選。総務大臣、自民党選挙対策副委員長などを歴任し、2012年12月より内閣官房長官に就任。


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