「ここだけの話ですよ。『見学』と聞くと正直ほっとするんです。もちろん、見学が多いほど助かります」

 ある特別支援学校に勤務する体育の先生の内緒話です。

 

 厚生労働省が発表した人口動態統計によると、2022年の日本の出生数は80万人を割り込みました。全国の学校の児童・生徒数は当然減少傾向にある一方で、特別支援学校の児童・生徒数は年々増加しています。その理由に障害は隠すことではない、という社会になってきたこともあります。普通学級で授業についていけなかったり、そのせいでいじめに遭うかもしれないという不安材料よりも、手厚い教育を受けたい(受けさせたい)と考える人が増えていることも事実です。そのことによる特別支援学校の限られた校舎や体育館、授業の時間などを鑑みると、子どもたちが身体を動かしたり、遊んだりする場や機会が減っているのが現状です。

 

 体育の先生は子どもの頃からスポーツ万能な人が就くケースが一般的です。そのため、障害のある子どもの「できない」を理解しにくいことから、指導に苦慮する一面もあると聞きます。先述した体育の先生が、複雑な胸の内を明かします。

「けがはもちろん、できないことで子どもが自信を失ったり、いじめの原因をつくってしまったりしたら、と思うと……。また保護者の顔が浮かんだりすると、緊張の極致です。だからいけないと思っても、見学にほっとする気持ちを否定できないんです」

 私が訪問した日、見学者は体育館ではなく、特別支援学校学級の教室で別の教員の授業を受けていました。

 

 またある日のことです。特別支援学校小学部の体育の時間。体育館で体育教員が授業を行う中、横たわっていてほぼ身体を動かすことができない児童には1対1で数名の補助員がついていました。そこには少しずつでも動けるように、という思いがあふれています。しかし、常態的にこのスタイルで授業を行っていくことは困難であることは想像に難くありません。

 

 児童・生徒数が増えたこと、従来の体育の授業が困難なことを重ねてみると、子どもたちがスポーツや遊びに触れる方法はいろいろあるのではないでしょうか。

 する・みる・支える――スポーツには様々な関わり方があるように、体育の授業でも「する」以外の機会を創出することができます。

・クラス全員が参加

・実技に参加しない生徒はアシスト役、手伝いに回る

・見学は体育館でする

・じっと見ているだけでなく、見学者もチーム分けし、チームを応援する

 

 また、体育の授業以外でも応用できそうです。

・教室でできる簡単なゲームをする

・校庭に芝生を敷設し、裸足、寝っ転がるなど自由に遊ぶ

・地域の総合型市域スポーツクラブ、放課後等デイサービスと連携して放課後の時間を活用する

 いずれも容易でないことも容易に想像できますが……。

 

 すでに体育の授業がいわゆる競技スポーツだけを教えるものではなくなっている今、特別支援学校・学級でも、体育、体育の授業以外でも、こころや身体を動かす時間をつくることが可能なのではないでしょうか。

 まずは一緒に遊ぶことから始めてみませんか?

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。第1期スポーツ庁スポーツ審議会委員、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問を務めた。2022年10月、石川県成長戦略会議委員に就任。同11月に馳浩スペシャルアドバイザーに就いた。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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