二宮: 秋山さんが水泳を始めたきっかけは?

秋山: 3歳の時に母親に連れられてスイミングスクールに通い始めました。

 

二宮: 上達は早かったんでしょうね。

秋山: いえ、そうでもなかったですよ。コーチに水の中で手取り足取り教えてもらって、どうにか四泳法を身につけました。

 

二宮: 水泳のどこに魅力を感じましたか?

秋山: 最初のうちは水泳が特別に好きということはなかったですね。スイミングスクールに行くのが嫌だなと思ったこともありましたし......。水泳がというよりも、友達と遊びたくてスクールに行っていたような感じでした。

 

二宮: そんな秋山さんがパラリンピックを意識し始めたのは?

秋山: 小学5年生の時、河合純一さんの本を読んだんです。パラリンピックのことを知って、「私も出たいな」と思ったのが最初でした。

 

二宮: そのパラリンピックに初めて出場したのが高校2年の時のアテネ大会でした。それから3大会連続で出場されましたが、パラリンピックは他の国際大会とどう違いますか?

秋山: やっぱり、パラリンピックは特別な大会ですね。観客の数も違いますし、世界選手権など、他の国際大会には出場していないような選手も出てくる。何度出ても、独特な雰囲気を感じます。

 

 肌で感じたパラリンピック人気

 

二宮: パラリンピック自体に変化を感じることはありますか?

秋山: アテネよりも北京、北京よりもロンドンというふうに、観客の数がどんどん増えていますね。特にロンドンでは予選からチケットが完売という、今までには考えられないことが起こっていて、本当に驚きました。

 

二宮: 応援に来られていた家族もチケットを取るのに苦労したのでは?

秋山: そうなんです。家族も含めて日本からは48人の応援団が駆けつけて来てくれたのですが、チケットを取るのは本当に大変でした。当日券もなかったので、現地の人に頼んでなんとか取ってもらったり......。私自身、予選からあんな大歓声の中で泳ぐとは、全く想像していませんでした。

 

二宮: 雰囲気が違いましたか?

秋山: はい。英国の人たちは紳士的な応援してくれて、どの国の選手にも温かい応援をしてくれるのですが、やっぱり地元選手が登場したりメダルを獲ったりすると、歓声が一段とすごかったですね。もう、地鳴りのようでした。

 

二宮: あまりにも歓声が大きくて、困ったことはありませんでしたか?

秋山: 英国の応援は本当にマナーが良くて、あれだけの大観衆だというのに、スタートの瞬間は、ピタッと歓声がやんで、静まり返るんです。実は日本チームは怒られてしまったんです(笑)。スタンドから応援している時に、静かになったタイミングを見計らって、「○○さん、頑張れ!」って言っていたら、「静かに」と。

 

二宮: 見る側の態度、マナーは大切ですよね。

秋山: 最初のうちは私たちも、立ち上がって日の丸を振ったりしていたんです。そしたら周りから「立つな、立つな」と言われてしまいました。英国には立って応援するという習慣がないようで、それもマナー違反として見なされていたんです。おそらく立つと、後ろの席の人が見えなくなってしまうからかなと。とにかく、本当にマナーがしっかりしていましたね。アテネも北京も、やりたい放題だったので(笑)、あんなにマナーのいいパラリンピックは初めてでした。でも、その方が気持ちよく応援できるなと思いました。

 

(第4回につづく)

 

秋山里奈(あきやま・りな)プロフィール>

1987年11月26日、神奈川県生まれ。先天性の全盲。3歳から水泳を始め、小学5年の時に読んだ本で知った河合純一選手(バルセロナ大会から6大会連続でパラリンピックに出場し、計21個のメダルを獲得している)に憧れてパラリンピックを目指す。高校2年時に初出場したアテネ大会では100メートル背泳ぎで銀メダル。08年北京大会では同種目が廃止されるも、50メートル自由形で8位入賞を果たす。ロンドン大会では100メートル背泳ぎで悲願の金メダルに輝いた。今年7月のジャパンパラでマークした自己ベスト1分18秒59は世界記録となっている。現在は明治大学大学院に通っている。


◎バックナンバーはこちらから