混戦が続くパ・リーグは残り15試合前後となっても優勝の行方がまだ見えない。現在、首位に立つ北海道日本ハムで今季、押しも押されもせぬスターターに成長したのが6年目の吉川光夫だ。昨季まで3年間、白星がなかった左腕は開幕から勝利を重ね、ここまでチームトップの13勝(4敗)。特に苦しい夏場の8月に無傷の4勝をマークして月間MVPを受賞した。防御率1.66はリーグナンバーワンで初タイトルへの期待も高まっている。24歳が突如、化けた理由はどこにあるのか。二宮清純が本人に訊いた。
(写真:8月には無四球完投を2度記録。制球に苦しむ姿はもうない)
二宮: 今季は大活躍のシーズンになっていますね。
吉川: いや、まだまだです。そう思って毎回、投げています。

二宮: それにしても昨年までとは雲泥の差です。何が変わったのでしょう。
吉川: しっかり腕が振れている点に尽きますね。腕が振れているのはフォームや技術的なものが変わったからではなく、考え方が変わったからと言ったほうがいいでしょう。

二宮: 考え方ですか。具体的には?
吉川: 今まではコントロールが悪くて、フォアボールを出したらいけないと思っていたんです。でも、(栗山英樹)監督からは「フォアボールを出してもいい」と。「それよりもしっかり腕を振って投げてくれ」と言われました。その言葉を聞いて、「フォアボールを出しても、その後、抑えればいいんだ」という発想ができるようになったんです。

二宮: 栗山監督のアドバイスに救われたわけですね。
吉川: はい。監督からは「オマエがマウンドで納得するボールさえ投げてくれればいい。結果は勝っても負けてもいいんだ。オマエが納得して投げてくれれば、オレも納得してマウンドに送り出す」と言ってもらえました。そういう気持ちで投げさせてもらえると、すごくラクになりましたね。

二宮: 逆に言えば「フォアボールを出してはいけない」と思ってしまうほど、コントロールの悪さはコンプレックスだったと?
吉川: (広陵)高校3年の夏も準決勝でフォアボールを連発して負けて甲子園に行けませんでした。コントロールを良くするには自分の感覚を磨くしかないと思って、高校時代からずっとボールを握って、投げ込みもしてきたんです。でも、ブルペンや練習試合ではいいボールが投げられるのに、大事な試合になるとどうしても力む。それで腕のコントロールがつかなくなってしまっていたんです。

二宮: 制球難はアマチュア時代から抱えていた悩みだったんですね。
吉川: そうです。背後霊のようにつきまとっていました(苦笑)。僕の背中にずっと、ずっといるんです……。

二宮: 今季は制球も安定し、“背後霊”を振り払ったと言えるのではないでしょうか。特に最初の登板(4月1日、埼玉西武戦)で8回を無四球で投げられたのは大きかったでしょう?
吉川: 試合には負けてしまいましたが、僕の中ではきっかけをつかめた一戦です。フォアボールがひとつもなく、今年は行けるという自信になりましたから。

二宮: 吉川投手は、いわゆる88年世代。チームメイトには同い年の斎藤佑樹投手がいます。
吉川: 右と左の違いもあるし、持っている球種も違うので、お互い参考になる部分は少ないと思うんですけど、ロッカーが隣なのでよく話はします。アイツがいいのはコントロール。考え方も「フォアボールを出しても抑えればいい」と冷静ですし、勝負どころで緩急を使ったり、コーナーにうまく投げられるところはスゴイなと思っています。

二宮: 先程、腕が振れているのが好調の要因と話していましたが、スライダーのキレも良くなったように映ります。
吉川: それも腕の振るスピードが増したからだと思いますね。僕のスライダーの握りはフォーシームから、ちょっと握る位置を中指側にずらした程度。カットボール気味のスライダーなんです。だから腕を振ることでよりストレートとの見分けがつきにくくなっているのかなと感じます。
(写真:チェンジアップは巨人・杉内俊哉の投球VTRを自宅で繰り返し見て参考にしたという)

二宮: たったそれだけなのに、スライダーがおもしろいように変化しますね。投げるコツがあるのでしょうか。
吉川: 投げる寸前まではストレートと一緒ですね。最後にちょっと手首をひねる。指先で切るというイメージではなく、手首を返す感覚ですね。



※『週刊現代』に掲載された吉川投手に関する特集記事の全文が、スポーツポータルサイト「Sportsプレミア」に掲載されています。こちらも合わせてご覧ください。下のバナーをクリック!