Jが渇望していた鹿島への無邪気な期待
長野県諏訪市に住むわたしのいとこは、熱狂的な松本山雅のファンである。社会人になるまで、それほどサッカーに関心がなかったはずなのに、なぜアウェーゲームを追いかけるまでにハマってしまったのか。
「やっぱり、レッズに勝ったのが大きかったなあ」
彼が理由としてあげたのは、もちろん、09年の天皇杯である。世紀の番狂わせを起こした北信越リーグのチームは、ここから6年でJ1の舞台にまで駆け上った。サッカーの世界には、チームの運命を変えてしまう試合というものがある。
ヘビーメタルしか聴かないわたしは一度も見たことがなかったが、さすがに存在ぐらいは知っていた国民的アイドルグループの冠番組が最終回を迎えた。その平均視聴率は23・1%。最高瞬間視聴率は27・4%だったという。その数字を聞いて、あらためて衝撃を受けた。平均視聴率26・8%、最高瞬間視聴率が36・8%だったというクラブW杯の数字に、である。
長い間、というよりもJリーグが発足して以来ずっと、日本におけるもっとも人気のあるチーム、つまり視聴率の取れるチームは日本代表だった。Jリーグが地上波から姿を消し、選手の収入がプロ野球選手に大きく水をあけられてからも、日本代表とその周辺だけは依然として潤っていた。最近では日本代表の低下を囁く声もチラホラと聞こえてきてはいたが、それでも、Jリーグの置かれた苦境とは次元が違っていた。
だが、鹿島がレアルを倒しかけたあの試合は、今年行われた日本代表のどの試合よりも高い視聴率を記録した。少なくとも視聴率のうえでは、SMAPの最後よりも高い関心を集めた。
このことの持つ意味は重要だ。とてつもなく重要だ。というのも、これからしばらくの間、鹿島は「世界2位のチーム」として見られることになるからである。
熱心なサッカーファンであれば、クラブW杯の2位がそのまま世界の2位を意味するわけではないことぐらいわかっている。だが、そうした熱心なファン以外の層が関心を持たなくなったところに、Jリーグの苦境はあった。鹿島に向けられる無邪気で無責任な期待こそ、近年のJリーグが渇望していたものではなかったか。
世界2位のチームは、もちろん、国内のカップ戦“ごとき”で負けるわけにはいかない。来年のJリーグも、アジア“ごとき”と戦うACLも、すべて勝利が求められる。選手からすれば、たまったものではない。現実を知ってくれ、と叫びたくなるかもしれない。
だが、乗り越えれば、とてつもなく強くなる。
サッカーの世界には、チームの運命を変えてしまう試合というものがある。クラブW杯の余韻がいまだ残る今年の天皇杯。レアル戦の衝撃を潰すか、つなげるか。ここからの1試合、もしくは2試合は、鹿島の運命を決定づける戦いとなる。
<この原稿は16年12月29日付『スポーツニッポン』に掲載されています>