今季の独立リーグ日本一を決定する「日本独立リーグ・グランドチャンピオンシップ2012」が20日、開幕する。対戦するのは高津臣吾監督の下、BCリーグ初制覇を果たした新潟アルビレックスBCと、四国アイランドリーグplusで最多となる5度目の優勝を収めた香川オリーブガイナーズ。両者はいずれもポストシーズンの戦いを無敗で勝ち上がっており、投打ともに勢いがある。ハイレベルな戦いが期待できそうだ。同チャンピオンシップでは一昨年までアイランドリーグ勢が4連覇を達成してきたが、昨年は石川ミリオンスターズがBCリーグ勢で初の日本一に輝いた。BCリーグの連覇か、アイランドリーグの逆襲か――。“もう1つの日本シリーズ”に臨む両チームの戦力を分析する。
新潟アルビレックスBC
★今季成績(上信越地区)
前期 21勝13敗2分 勝率.618(1位)
後期 29勝7敗0分 勝率.806(1位)
上信越チャンピオンシップ 1勝0敗(対信濃)
リーグチャンピオンシップ 3勝0敗(対福井)

 投打ともに他を圧倒!

 前後期ともに圧倒的な力で完全優勝した今季の新潟は、まさに「チャンピオン」の名にふさわしいチームと言っていいだろう。特に後期は圧巻だった。36試合中、黒星はわずか7。北陸地区の3球団においては、無傷の18連勝を達成した。その勢いはとどまるところを知らない。信濃グランセローズ、福井ミラクルエレファンツとのプレーオフを一つも落とすことなく連勝で制し、球団創設6年目にして悲願のリーグチャンピオンに輝いた。

 今季の新潟は投打ともにコマが十分にそろっており、大きな穴がない。チーム成績を見ると、その特徴がよくわかる。防御率2.84は福井の2.56に次いでリーグ2位だが、完投数は石川ミリオンスターズの16、福井の15に大きく差をあけられての7だ。この数字が意味するのは、先発投手が完投しなければならず、少ない人数の投手に負担が大きくかかっていた石川、福井に対して、新潟は中継ぎ、抑えがしっかりしていたために盤石の投手リレーを形成することができたということである。

 また、打撃成績はリーグトップの打率2割8分5厘、408得点をマークした。それぞれの2位の成績が打率2割6分7厘(富山)、320得点(信濃)であることからも、ダントツだったことがわかる。しかし、だからといって大味な野球だったわけではない。本塁打はリーグ4位の19本と決して多くはない。2位に88得点もの大差をつけた408得点をマークしたチームにしては、少ないと言ってもいい。では、新潟は何で得点を稼いだのか。そのひとつは“足”である。それを表わしているのが盗塁104、二塁打124と、ともにリーグ最多の数字だ。足を絡ませ、積極的に次の塁を狙う野球が、今季の新潟の得点力を上げたのだ。

(写真:最多勝に輝いたエース寺田)
 先に行なわれたプレーオフで4試合中、2試合に先発し、チームに大きく貢献したのが、投手陣の大黒柱であるエース寺田哲也(作新学院高−作新学院大)だ。今季は24試合に登板し、14勝4敗、防御率2.60。最多勝と奪三振王(145)の2冠に輝いた。最大の武器は低めへのコントロール。力みのないフォームから、徹底してボールの高さにこだわるピッチングで、ゴロを打たせて取る。配球の核となっているストレートとスライダーのほか、入団後に覚えたシュート、チェンジアップの精度の高さも、今季の好投につながった要因といえる。2試合に登板したプレーオフでは6回途中7安打2失点、8回8安打1失点。ランナーを出すものの、そこからの粘りの投球が光った。今回も初戦での登板が濃厚だ。きっちりとエースとしての役割を果たし、チームに流れを引き寄せたい。

 寺田に次いでリーグ2位の12勝を挙げたのが、2年目21歳の阿部拳斗(中越高−新潟証券)だ。昨オフにはコロンビアリーグに参加し、自信をつけたことがシーズンの好投を生んだ。落差のあるフォークで三振を奪う強気なピッチングに期待したい。

 シーズン途中から先発に転向し、10勝(1敗5セーブ)を挙げた間曽晃平(横浜商業高−神奈川大)は、抜群の安定感を誇る。リリーバーとしての実績も十分で、プレーオフでは中継ぎ、抑えとして登板した。どのポジションにも起用できる間曽の存在は、チームにとって非常に大きい。指揮官からの信頼も絶大であることは言うまでもない。試合の流れによって変えられる間曽の起用法が勝敗を分ける一つのポイントとなる。

 この先発3本柱の後ろに控えているのは、ともに1年目の中継ぎの羽豆恭(中央学院高−中央学院大)と抑えのロバート(八王子実践高−亜細亜大−ドジャース<マイナー>)だ。190センチの長身右腕・羽豆は、角度のある直球と落差のあるフォークが最大の武器。ここぞという時に三振が取れるのが強みだ。一方、ロバートは6月に入団し、11セーブを挙げた。このロバートが抑えに定着したことで、間曽が先発に転向し、先発3本柱が形成されたことを考えれば、チームへの貢献は非常に大きかったと言える。

 打線は1番から9番までどこからでもチャンスメイクでき、得点をすることができる。特に盗塁王(37)の野呂大樹(堀越高−平成国際大)と打点王(61)の平野進也(東福岡高−武蔵大)の1、2番コンビは相手投手にとっては非常にやっかいだ。プレーオフでは両者ともに試合を決める大事な一打を放っている。野呂は福井とのリーグチャンピオンシップ第2戦、2点ビハインドの5回に2死満塁から走者一掃のタイムリー三塁打を放った。結局これが決勝点となり、新潟は3−2と1点差での逆転勝ちを収めている。一方、打点王が本領を発揮したのはその前日の第1戦だ。同じく2点ビハインドを負っての2回、2死満塁から平野の走者一掃のタイムリーで勝ち越す。結局、新潟はこの試合、14安打11得点と猛打をふるい、大勝。その口火を切ったのが平野の一打であった。
(写真:捕手としても信頼を寄せられている平野)

 プレーオフに入って最も調子の良さを見せているのが、コーチを兼任する青木智史(小田原高−広島−マリナーズ<1A>−ウェルネス魚沼−セガサミー)だ。信濃、福井との4試合を通じて16打数10安打2打点、打率6割2分5厘を叩き出している。6日の福井とのリーグチャンピオンシップ初戦では5打数4安打2打点と大暴れするなど、2008年には本塁打王に輝いたそのパワーと勝負強さは健在だ。4番・福岡良州(流通経済大学付属柏高−流通経済大)に当たりが戻れば、シーズンで見せた切れ目のない打線となる。

 プレーオフでは全4試合で逆転勝ちを見せた新潟。先行されても、必ず追いついて逆転し、最後は守り切るという信頼関係が投手と野手の間には築かれていることが、固い結束力を生み出している。敵陣に乗り込んでの初のグランドチャンピオンシップの舞台だけに、まずは初戦をモノにして勢いに乗りたいところだ。

香川オリーブガイナーズ
★今季成績
前期 25勝10敗5分 勝率.714(1位)
後期 21勝14敗5分 勝率.600(2位)
リーグチャンピオンシップ 3勝0敗(対愛媛)

 カギは扇の要・星野の肩とリード

 終わってみれば強さが光ったシーズンだった。
 昨季と比較すれば主力4選手がNPB入りし、エースの高尾健太(高松商高−メディアハウス)が出遅れた。「今年は手ごたえがない」と開幕前は珍しく西田真二監督が弱音を漏らすほどの完成度だったチームは、フタを開けてみると順調に勝ち星を伸ばした。前期をほぼ独走で制すると、後期は故障者が続出する中、ラスト1試合まで優勝争いを演じた。リーグチャンピオンシップで打倒・香川に燃える愛媛を寄せつけず、一気に3連勝を収めた。

 強さの原動力となったのが投手陣だ。広島から派遣された育成選手の山野恭介(明豊高)が16勝をあげて最多勝を獲得。四国に来て武器であるストレートのスピードが増し、高尾の穴を完璧に埋めた。また新人の渡辺靖彬(藤枝明誠高-京都ジャスティスベースボールクラブ)が試合を重ねるごとに成長し、8勝をあげて一本立ち。愛媛とのチャンピオンシップでは初戦の先発を任され、5回無失点で流れをつくった。新潟との戦いでも、この両先発を立ててくることが濃厚だ。
(写真:フォークボールと高速スライダーを習得し、投球の幅も広がった山野)

 リードを奪えば、ブルペンには多彩なメンバーが控える。「福岡ソフトバンクの森福允彦のフォームを参考にしている」と伊藤秀範投手コーチが明かす後藤正人(天理高−佛教大−アークバリアドリームクラブ)、西村拓也(九州産業大附九州高−福岡レッドワーブラーズ)の左2枚に、9月から加入したアンソニー・プルータ(アストロズ傘下など−米独立リーグ)、抑えの酒井大介(東筑紫学園高−駒澤大(中退)−北九州硬式野球クラブ−長崎セインツ)とつないで逃げ切る。プルータは外国人特有の重いストレート、酒井はキレのあるストレートを投げるのが特徴でタイプが異なるだけに厄介だ。リーグチャンピオンシップではシーズン中に先発要員だった大場浩史(如水館高−広島経済大)を中継ぎに回しており、万一、先発が早く崩れてもロングリリーフを任せられる。

 新潟で警戒すべきは機動力だ。シーズン中の犠打は19とリーグでダントツに少ない半面、盗塁は104とトップを誇った。強肩で「スローイングの正確さには自身がある」と語るキャッチャー星野雄大(岡山東商高−日産自動車九州−伯和ビクトリーズ)と19歳の大川修也(地球環境高)が、どこまで相手の足を封じるかがポイントになる。星野は今季1年目だが、社会人の伯和ビクトリーズ時代には都市対抗野球に出場し、25日のNPBドラフトで指名候補にも挙げられている。「扇の要としての成長が前期優勝につながった」と西田監督の評価は高い。「トーナメントのつもりで戦うので、社会人時代の経験が生きるはず」と本人も短期決戦のリードに不安はない、
(写真:社会人では現東京ヤクルトの七條ともバッテリーを組んだ星野)

 打線は今季盗塁王(37個)の水口大地(大村工高−長崎セインツ)がトップバッターとして牽引する。水口が出塁してかき回し、首位打者の実績もある国本和俊(享栄高−三重中京大)、元阪神の主砲・桜井広大(PL学園高)、リーグチャンピオンシップで大活躍したウィルバー・ペレス(ロイヤルズ傘下−米独立リーグ)ら中軸で還すのが得点パターンだ。新潟の先発は1、2戦とも右腕が予想されるため、ケガから復帰した前期MVPの島袋翔伍(中部商高−ビッグ開発ベースボールクラブ)や、みやざきフェニックス・リーグでNPB相手に結果を残した北村祐(京都外大西高−びわこ成蹊スポーツ大−神戸9クルーズ−三重スリーアローズ)といった左打者の働きもキーになるだろう。

 新潟は後期シーズンを8割を超える勝率で優勝するなど投打ともに充実している。しかし香川は過去、2007年、08年、10年と3度、グランドチャンピオンシップに出場し、いずれも日本一に輝いた。その経験は相手にはないものだ。しかも今回は第1戦、第2戦が得意のホーム。同チャンピオンシップでは過去6勝0敗と1度も本拠地で負けたことがない。新潟が本領を発揮する前に、一気にシリーズの主導権を握りたいところだ。

<グランドチャンピオンシップ概要>

【試合日程】
★四国アイランドリーグPlusラウンド
10月20日(土) 第1戦 香川−新潟 レクザムスタジアム 18時
10月21日(日) 第2戦 香川−新潟 レクザムスタジアム 18時
※雨天などで順延の場合、予備日程で実施(10月22日〜23日 レクザムスタジアム 18時)

★BCリーグラウンド
10月27日(土) 第3戦 新潟−香川 悠久山野球場 12時30分
10月28日(日) 第4戦 新潟−香川 HARD OFF ECOスタジアム新潟 13時
10月29日(月) 第5戦 新潟−香川 HARD OFF ECOスタジアム新潟 18時
※雨天などで順延の場合、第5戦終了時で決着がつかない場合、予備日程で実施(10月30日〜31日 HARD OFF ECOスタジアム新潟 18時 11月1日 三條機械スタジアム 18時)。

【チケット】
<BCLラウンド>大人:1,500円 小・中学生・未就学児:無料
<四国ILplusラウンド>大人:1,500円 小・中学生・未就学児:無料

【ルール】
・3戦先勝したチームが優勝とする。
・全5戦を終了した時点でいずれかのチームの勝敗が3勝に満たない場合は、対戦成績で勝数の上回っているチームが優勝。対戦成績が同じ場合は、予備日にて追加で1試合を行ない、勝ったチームの優勝とする。
・雨天等により予備日を含む全ての日程を消化できなかった場合は、対戦成績で勝数の上回っているチームが優勝。対戦成績が同じ場合は両チーム優勝とする。
・9回裏を終了して同点の場合は延長戦を行う。延長戦は原則として決着がつくまで行う。ただし、球場使用時間の制限などで引き分けとなる場合がある(レクザムスタジアムでは延長戦の場合、21時30分を超えて新しいイニングに入らない)。
・予告先発は採用しない。