みなさん、こんにちは。昨年3月にスタートしたこのコーナー、これまでセカンドキャリアに関すること、そして時事ネタなどを熱く書きました。「かなり過激なことを書いてますが大丈夫ですか?」と会った人たちから言われていますが、根拠がない発言をしてきたつもりは全くありません。せっかく与えられた場所なので自分が思うことを正直に書いてきました。


 でも野球界にはまだまだ改善すべきところが山積みだと思っているので、これからも前を向いて進んでいる仲間を増やし、野球界、そしてすべてのアスリートのためにできることをやっていきたいと考えています。


 さて今回は、野球界にはまだ存在しないコーチライセンス制度についてです。現状の野球界のすべてのカテゴリーにおいて、監督やコーチは縁故や知り合いベースで決まっています。プロ野球も例外ではありません。指導者人事において、その人の指導能力はあまり関係ないと言っても過言ではないでしょう。

 

 私も様々な場所で野球を教えることがありますが、多くのアマチュア指導者の方からこんな声があがっています。
「元プロの方は自分の考え方を選手に押し付けるから、選手の調子が悪くなる」「選手たちが教えられたことの意味がよく理解できないと言っている」「自分たちを下に見た言動はどうかと思う」などなど。多くの、と言いましたが、行く場所ほとんどで同じような声があがっているのです。

 

 その原因はどこにあるのでしょうか。それは元プロ選手の「俺は元プロだから野球を教えられる立場なんだ」という思い込みにあるのではないかと思っています。人を上から見るような態度は、相手にそう言わずとも伝わってしまうものです。「元プロだから」と言うのなら、別のアプローチがあるはずです。プロ野球までたどり着いた人間だからこそ伝えられることもあるし、子供たちに明るい未来を見せることもできるでしょう。
 元プロとして勇気や希望を与える、そういう気持ちで指導すれば先にあげたような苦情が出ることもないでしょう。ただ今のままではそれは無理だとも痛感しています。

 

 そんな現状を打破するために必要なのが、早急なライセンス制度の構築です。でも大きな壁があって、まったく前に進めません。

 

 その壁とは、野球界はひとつではないということです。すでに指導者のライセンス制度を確立しているサッカー界はトップからボトムゾーンまで、Jリーグを頂点にして一枚岩のピラミッド構造になっています。対する野球はといえば、少年野球ひとつとってみても協会がいくつもあります。それは軟式も硬式も同じです。高校は高野連、大学は大学野球連盟、社会人は日本野球連盟(JABA)が管理して一見するとヒエラルキーが構築されているように見えますが、残念ながらそうではありません。周知のようにプロ野球とアマの間にも溝があります。

 

 野球界がひとつになれない、一枚岩になれない理由は、簡単にいえば大人の事情です。利権なども絡んでいてなかなか一枚岩の実現は難しいのでしょう。ですが子供たちの将来ことを考えればそうも言ってられません。

 

 野球界の指導方法に問題意識を持っている方々もいて、指導者講習会を開催しているのも知っています。しかし個々でやっているからその講習を受講してもライセンスがもらえるわけではありません。何のためにやっているのかが明確にならない現状では、残念ながら主催者側の自己満足で終わっていると言わざるを得ません。

 

 野球指導者とはどういうものか。それを明確にするライセンス制度を構築するために、また熱意を持って上記のような講習会で頑張ってる方たちの思いが無駄にならないように何が必要か。一例をあげれば日本野球機構(NPB)、JABA、独立リーグ、全日本大学野球連盟、高野連、少年野球(硬式、軟式)など、それぞれのトップが同じ場所に集まり、子供たちのためにこれからの指導法とは何かを真剣に議論することじゃないかと考えます。
 そこにはNPBだから偉いとか、新聞社だからどうだとか、そういう縄張り意識もあってはなりません。野球界のみんなでライセンス制度を考えて構築する。これが将来のセカンドキャリア問題を解決するための第一歩になると信じてやみません。

 

 野球を愛する大人が、これから野球に興味を持つ子供たちに何ができるか。それは子供たちが野球を楽しみ、そして社会に出たときには自分の足で立ち自分で考えて何事にも向かっていく人間になってくれる。そのために今できることは何かを真剣に考えて、取り組んでいく時ではないでしょうか。

 

1600314taguchi田口竜二(たぐち・りゅうじ)
1967年1月8日、広島県廿日市市出身。
1984年に都城高校(宮崎)のエースとして春夏甲子園出場。春はベスト4、夏はベスト16。ドラフト会議で南海ホークスから1位指名され、1985年に入団し、2005年退団。現在、株式会社白寿生科学研究所人材開拓グループ長としてセカンドキャリア支援を行なっている。

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