高木豊(元横浜)&松田宣浩(福岡ソフトバンク) 第24回「国際試合で痛感したセオリーの大切さ」
二宮 今回の「白球徒然 ~HAKUJUベースボールスペース~」は特別編です。白寿生科学研究所副社長・原浩之さん、人材開拓課課長・田口竜二さん、そして福岡ソフトバンク松田宣浩選手、元横浜の高木豊さんにお集まりいただきました。白球徒然スペシャルトークということで、みなさんよろしくお願いします。
一同 よろしくお願いします。
二宮 さて、まずは原さん。白寿生科学研究所は福岡ソフトバンクのオフィシャルスポンサーを務めているんですよね。
原 はい。弊社の開発したカルシウム飲料「カルロン」を福岡ソフトバンクさんに提供しています。毎年、春季キャンプでは贈呈式を行っているんですよ。
松田 いつもありがとうございます。
二宮 原さんは自らの会社でプロ野球をサポートする一方で、個人的に熱心な野球ファンでもあるんですよね。野球を本格的に見るようになったのはいつからですか。
原 1980年ですね。高木豊さんがドラフトで指名された年と同じです。
高木 そんな年数までよくご存知ですね(笑)。
原 もうただの野球オタクですから。というのも私が当時、応援していたのが同姓の野球選手、原辰徳さんだったんですよ。彼もその年のドラフトだったので、よく覚えているんです。
高木 巨人のドラフト1位が彼で、僕は横浜大洋のドラフト3位でした。マッチ(松田宣浩)は何年生まれなの?
松田 83年生まれです。
高木 じゃあ、オレの現役時代はほとんど知らないんだよね。
松田 うーん……はい、すみません(笑)。
二宮 田口さんは都城高校から南海にドラフト1位でプロ入りしました。85年のことです。福岡移転後もホークス一筋でしたが、何年まで在籍されてましたか。
田口 2軍のスタッフ時代も含めれば2005年までですね。松田君は何年のドラフトでホークスに?
松田 僕は05年秋に指名されました。
二宮 ちょうど入れ違いですね。田口さんは現在、白寿生科学研究所で人材開拓課、いわゆるプロ野球選手のセカンドキャリアに取り組んでらっしゃいます。白寿はプロアスリートのセカンドキャリアに対する取り組みにも積極的ですよね。
原 そうですね。これまでに田口を含めてNPBから6人。独立リーグから10人以上の元選手を採用しています。プロ野球選手として成功できるのはやはり一握りの人たちです。それ以外の選手の将来をフォローしていくことも、野球界の未来のために必要だと思っていますね。
二宮 なるほど。現役選手、元選手、そしてプロ野球サポーターという立場から、今回はざっくばらんな野球トークをお願いします。
セオリーが生まれた背景
二宮 いよいよ第4回WBCの開幕が迫ってきました。松田選手は侍ジャパンの一員として当然、心に期すものがありますよね。
松田 WBCは前回も出ましたが準決勝で敗れました。小久保ジャパンとしては一昨年のプレミア12で準決勝で韓国に負けています。僕自身、国際大会では悔しい思いしか経験がないので、今回は世界一になりたいと思ってます。
高木 国際試合ってすごいんですよ。私もアテネオリンピックの日本代表にコーチとして参加しました。その予選のときに松井稼頭央が「行こうとしても足が動かないんですよ」と言っていたのを覚えています。本当に代表、国際試合というのはプレッシャーがハンパじゃないんですね。
二宮 小久保裕紀監督が率いる今回の侍ジャパン、高木さんはどう見ますか。
高木 選手は文字どおり日本を代表する人たちばかりだから戦力としては申し分ありません。でも見ていると小久保監督がまだ遠慮してる部分が感じられますね。
二宮 遠慮というと?
高木 たとえばアテネのときは中村紀洋にバントの指示をして、それを決めてくれたことがあった。今回、たとえば「どうしても1点」という場面で主軸を打つ中田翔や筒香(嘉智)に対してランナーを送る、バントのサインを出せるのか、ということですよね。
二宮 指揮官にその覚悟があるのかどうか?
高木 そうですね。あと選手にも同じことが言えます。「オレは打ってランナーをかえしたいんだ」とこだわっているのか、「何しても勝ちたい。バントでもなんでもやる」という姿勢なのか。それも気になるところですね。その辺りは実際にどうなのかな?
松田 今回の侍ジャパンは、僕も含めて全員が何をやっても勝ちたいと思っています。前回のWBCはあまり小技や足を使った揺さぶりがなかったんですよ。それも準決勝で負けた要因のひとつでした。だから今回は”勝つためなら何でもやる。積極的に動く”という方向で選手の気持ちは固まっています。当然、自分が打ちたい気持ちはありますが、チームが勝たないと代表選手としての評価はゼロですよね。だから勝つことが優先です。
高木 そういう”チームのために何でもする”という姿勢はやはり大事ですよね。
原 プレミア12では、韓国相手の準決勝で継投ミスで逆転負けを喫しました。その後に行われた3位決定戦はコールド勝ち(対メキシコ/11-1)です。チームの調子は悪くないのに、一発勝負の国際試合はひとつかみ合わせが狂ったらすべてが台無しになる。そういう怖さがありますね。
高木 国際試合は何が起きるか分からない。本当に怖いですよ。
松田 そういえば、プレミア12の韓国戦、9回の守備で僕が三塁線を抜かれたじゃないですか? あれって(ライン際を)締めておくべきでしたか?
原 それは私もうかがいたい(笑)。
二宮 あのときの状況を振り返りましょう。プレミア12の準決勝、対韓国戦。日本が3-0でリードして迎えた9回表、韓国の攻撃でした。二者が連続してヒットで出塁して無死一、二塁という場面です。
高木 最終回で3点差だから怖いのは長打ですよね。セオリーなら当然、ライン際に寄るケースです。三塁線を破られたら長打になりますから。あの守備位置はベンチの指示?
松田 そうです。僕も「ライン際に寄りますか?」と聞きました。でも仁志(敏久)さん(内野守備・走塁コーチ)はそのままでいい、と。基本的に仁志さんからはどの試合でもライン際を締める指示はなかった。国際試合では統計的にそこに来る確率は低い、それよりも三遊間をケアしろ、と。
高木 確率的には三遊間のゴロの方が多いんですよ。ライン際を1としたら三遊間は10くらいの割合です。ただ万が一、最悪の状況に備えるのが守備なんですよね。あのケースで三遊間を抜かれても誰も何も言わなかったと思う。ライン際を抜かれて長打になったから、こうやって記憶に残ってるわけですよ。ただ選手が悪いんじゃない。全部、チームの指示、作戦ですからね。
松田 他国の守備位置を見てると、あまりライン際には寄ってないんですよね。
二宮 そこはデータが活用されているんでしょうね。ただ国際試合となると、そういうデータを超えたところで何かが起きて、それがほころびのきっかけとなることも多いですよね。
高木 野球の歴史を辿るといろいろなことが起きています。セオリーというのはそういう過去の出来事やプレーに学んでできあがったものなんです。それを考えると、やはりセオリーというのは守った方がいいですよね。
憧れの守備位置はセンター
二宮 田口さんはプレミア12の試合はご覧になってましたか?
田口 いや、僕はもう野球をまったく見てないんですよ。
一同 エッ!?
田口 野球はプレーするのが好きだったのもあるし、あと野球を見ると未練が沸いてしまうかもしれない。今はセカンドキャリア支援を行っています。その立場の人間が野球に未練があったらうまくないかな、と。
二宮 なるほど。ところで高木さんはドラフト3位で入団して、プロ野球で14年間活躍されました。野球人としては幸せな人生ですよね。
高木 いやいやいや(笑)。でも現役時代はきつかったんですよ。プロ野球って本当に大変な世界だな、と今振り返ってもそう思います。だって活躍してても翌年はどうなるか分からない。それこそケガでもしたらそこで失業ですからね。
原 高木さんは現役時代から、将来のことを考えたりされてましたか?
高木 いや、プロ野球でどう生き残るかということで頭が一杯でした。あと「現役時代は副業はしない」と自分で決めていて、それはずっと守ってましたね。先輩の中にはお店をやったり、副業をしてる方もいましたが、自分はそれは無理だな、と。両立できないし、どっちつかずになるからやめようと思ってました。
原 自分を律していたわけですね。そのおかげで、高木さんはプロ野球で成功して年俸も相当に……。
高木 いやいやいや(笑)。今みたいにすぐに1億だ2億だなんて世界じゃなかったですよ、当時は。1千万円プレーヤーが一流かどうかの境目でした。それに僕の場合は、活躍してもそんなに上げてくれない球団でしたから。
二宮 高木さんは盗塁王を1回、3割を打ったことも1度や2度ではなく8度も達成しています。でもシーズンオフには年俸交渉で何度も話題になったのを覚えていますよ。
高木 こちらは「活躍したから上げてくれ」というシンプルな主張なんですけどね。3年連続で3割打っても「チームが勝ってない」とかいろいろ理由はつけられるわけですよ。それで「わーわー」と言いたいことを言ってたら、最後は放り出されました(笑)。
一同 (笑)。
二宮 横浜の後、最後は日本ハムでしたよね。守備位置も内野ではなく外野になりました。
高木 外野ってベンチから遠いんだな、バッターボックスからもすごく離れているんだなと思いましたよ。マッチは内野だけでしょ?
松田 いや、僕も2010年に少しだけ外野、レフトを守ったことがありますね。
高木 すごく遠く感じなかった? 僕は「こんな所にボールが飛んでくるのかな」って感じでしたよ。日本ハムに入って最初の試合、レフトの守備についたら外野席のファンが「高木、頑張れよー」と声かけてくれたの。それに手をあげて応えてたら、ピッチャーがもう1球投げ終わっていた(笑)。それくらい疎外感があったなあ。僕は次、野球をやるならピッチャーがいいなって思ってますよ。ベンチからも近いし(笑)。
田口 僕はピッチャーでしたけど、今度プロ野球に入るなら、バッター、野手だと思ってますよ。もう投げるのはいいかなと思ってます。
高木 野球はピッチャーが花形だと思うけどなあ。マッチはサード以外は守りたいポジションはある?
松田 センターですね。
原 へー。またどうしてですか?
松田 あれ、意外ですか? 外野に憧れがあるんですよ。でもレフトやライトはボールにドライブがかかってるから難しいんですが、センターは素直な打球だしいいかなと思ってます。それでダイビングキャッチをしてみたいんですよ。芝生の上にズザーッと。あれ絶対に気持ちいいですよ。
高木 みんな、ない物ねだりだよねぇ。
松田 というか今後、年をとってサードがダメだとなったときに自動的に「じゃあファーストな」って言われるのがイヤなんですよ。それだったら動けるうちにセンターをやりたいなと思ってるんです。それにファーストって難しいじゃないですか?
高木 そう! ファーストって簡単なポジションと思われるけど違うんですよ。
原 そこは声を大にして言いたい、と。
高木 だって野手からの送球はどんな球が来るか分からないんですよ。あれ、ノーサインでキャッチャーをやってるのと一緒ですよ。スライダーやシュートとか、もうどれだけ捕るのに苦労することか。
二宮 高木さんは内野は全ポジション経験されたんですよね。セカンドとショートでベストナイン、ショートではゴールデングラブ賞を獲得しています。内野ではどのポジションが一番やりにくかったんですか。
高木 全部です(笑)。特に「二遊間をやってからサードは簡単でしょ?」と言われるんですが、とんでもない。サードはサードで打球に勢いがあるから、差し込まれるんですよ。それを「グイッ」と踏ん張ってから投げるから、相当に体力が必要なんです。マッチなんかは体力があるし、躍動感にあふれてて見ててかっこいいよね。
松田 ありがとうございます。
原 代表で背番号3をつけてましたが、今年からチームでも背番号3ですよね。背番号3のサード、結構、オールドファンにはグッとくるものがあるんじゃないですか?
二宮 背番号3のサードといえば、ミスター(長嶋茂雄)を目指すしかないですよね。
松田 プレミア12から背番号3でサードでしたけど、何人もの方に「やっぱりその番号でサードはすごいな」と言ってもらいました。代表でもチームでもそういう期待に応えるような、いいプレーをお見せしたいと思ってます。
高木 センターを守りたいとか言ってるけど、やっぱりマッチは生涯サードだよ。
セとパ。野球の違いは球場の差
二宮 松田選手にうかがいます。セ・リーグとパ・リーグ、日本シリーズや交流戦で対戦して、両リーグの野球の違いを感じることはありますか?
松田 投手の違いは感じますね。セ・リーグは丁寧に低めをついてくる人が多い。対するパ・リーグはパワー型というか「オリャッ」ってタイプです。高めにズバーンと来るからこっちもそれを思い切り打ち返す必要があります。
原 どちらが対戦していて楽しいですか?
松田 全力で投げてきたボールをこっちも全力で打ち返す。そういう意味では、パ・リーグの投手との対戦の方が楽しいですね。
高木 セ・リーグとパ・リーグでは球場の違いはどう? パ・リーグの方が広い球場が多いと思うんだけど。
松田 15年からうち(福岡ドーム)にホームランテラスができましたが、それまでは一番、広い球場でしたよね。あと札幌ドームもあります。そういう環境だったので球場に合わせて選手もパワーアップしたんだと思います。
原 ここでホームラン打ってやろう、と。
松田 そうですね。だからパ・リーグはパワー系でフルスイングをする打者が多いんだと思います。
高木 しかし野球って不思議なスポーツですよね。
一同 不思議というと?
高木 だって競技する場所の大きさがバラバラなんですよ。もちろんマウンドからの距離やベースとベースの間は同じですけど、フェンスまでの距離は球場によって異なるんですよ。そこでホームラン数を競ったりするんだから、よく考えれば不思議だなあ、と。マッチも横浜スタジアムが本拠地だったら、今頃ホームラン王をとってるんじゃない?
松田 いやー、どうですかね。取材でたまに「セ・リーグに入っていたら?」と聞かれることがあります。でも、そうなったらそこに合わせた選手になってたと思うんですよ。そんなにガンガン振らないタイプの。そういう意味で僕は福岡ドームに育てられたんでしょうね。
目指すは世界一と日本一
二宮 さてそろそろ時間もなくなってきました。今季の目標をうかがいたいのですが、その前にひとつだけ。松田選手は通算ホームランは何本ですか?
松田 ホームランは188本、ヒットは1231安打ですね。
二宮 もちろん2000本安打達成は目標のひとつですよね?
松田 はい。その数字をクリアできるまで現役で頑張りたいと思ってます。
二宮 高木さんの通算安打は何本でしたか?
高木 僕は結局、1716安打で現役を終えましたね。
原 あー、惜しいですね。あと4年、いや3年、現役を続けていたら2000本を達成できてましたよね?
高木 そうでしょうねぇ。やはりプロ野球の当事者だから分かるんですけど、2000本のヒットを打つのは本当に大変ですよ。
原 それだけ長くプロ野球にいて、さらに活躍しなきゃいけないんですからね。
高木 そうなんですよ。だからそういう数字を残したというのが、プロで成功したというひとつの証なんでしょうね。
二宮 では改めてうかがいます。松田選手、今シーズンの目標は?
松田 まずは3月にWBCで勝って世界一になること。そしてチームとしてはリーグ優勝、そして日本一ですね。
二宮 世界一と日本一、これを同時に目標にできるとは選手冥利につきますね。
松田 そうですね。小久保監督と工藤(公康)監督、春と秋、2度胴上げできたら最高ですね。
原 去年の大逆転のようなことがないように応援しています。
松田 今年はひっくり返されないように頑張ります!