福岡ソフトバンクの主砲・内川聖一は国際大会に強いイメージがある。そこで調べてみると、WBCでは2009年第2回大会と13年第3回大会に出場し通算3割4分1厘の高打率を残している。

 

 鮮烈な印象を残したのは2回大会、第1ラウンド2回戦の韓国戦だ。韓国の先発は日本キラーのサウスポー金広鉉。北京五輪では「視界から消える」といわれるスライダーを武器に日本を手玉にとった。

 

 初回、1点を先制し、なおも2死一、二塁。ここで打席に立った内川は2-2のカウントから金のインローのスライダーをレフト線に運んだ。技ありのスイングで日本人キラーを討ち取った瞬間だった。

 

 なぜ内川は国際試合に強いのか。彼の野球観にその要因を見ることができる。「審判の決めるストライクゾーンと、僕のストライクゾーンは一緒ではない」。真顔でこんなことを言う選手は内川ぐらいのものだ。

 

 要約すれば、内川にとっては「自分が打てると判断したボールがストライク」であり、「(審判が決めた)ストライクゾーンに自分が従うかどうかは別問題」なのだ。もっと踏み込んで言えば、彼にとって重要なのはストライクゾーンの範囲ではなく、そのボールをヒットゾーンに運べるかどうかなのだ。

 

 周知のように、国際試合において、バッターが最も頭を悩ませるのが審判の判定基準である。かつて外国の審判は「内に辛く、外に甘い」と言われていたが、それも人によって異なる。それでも、その審判なりの判定基準が確立されているのであれば、まだ何とかなる。困るのは1球1球、判定にバラつきがあることだ。こうなるとバッターは前方のピッチャーではなく後方の審判と戦わなければならない。悪循環に陥る典型的なパターンだ。

 

 話を内川に戻そう。彼には弟子がいる。「神ってる」なる言葉で全国区になった広島の鈴木誠也だ。2年連続で内川主宰の自主トレに参加した。

 

 元々、そういうタイプだったのか内川の影響でそうなったのか、彼もまた独自のストライクゾーンを持っている。芸術的な“悪球打ち”を披露することもあれば、よだれの出そうな絶好球を見逃すこともある。良くも悪くも審判の判定傾向には無頓着だ。国際大会に向いている属性の選手と言えるかもしれない。さて、この2枚のワイルドカードを指揮官はどこで、どう切るのか…。

 

<この原稿は17年2月15日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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