IMG_1884(加工済み第1回) 高松市は香川県の中央に位置する四国の経済都市である。降水量も少なく、年間を通して温暖な気候だ。

 

(2017年4月の原稿を再掲載しています)

 

 この土地で生まれ育った宇山賢はフェンシング・エペの東京五輪代表候補選手だ。身長189センチの宇山はガード技術と相手を誘う駆け引きがうまく、長いリーチを生かしたカウンターを得意とするフェンサーである。

 

 一口にフェンシングと言っても、エペ、フルーレ、サーブルと3つの種目に分かれている。それぞれ違いは多数あるが、大雑把に言えば「有効面」の違いと「攻撃権の有無」、「攻撃方法」が異なる。

 

 フルーレはかつて太田雄貴が北京五輪で個人銀メダルを獲得した種目だ。攻撃ができるのは腕、頭を除いた胴体部分。そして、攻撃権が存在する。剣を持ち向かい合った両選手のうち、先に腕を伸ばし剣先を相手に向けた方に攻撃権が生じる。相手に剣を払われ、剣先を逸らされてしまうと攻撃権を奪われる。相手の攻撃を断ち切らない限り、攻撃は認められない。攻撃方法は「突き」のみが許される。

 

 サーブルの有効面は上半身全てだ。フルーレと違い腕と頭への攻撃が可能だ。フルーレと同様に攻撃権が存在する。攻撃方法は「突き」「斬り(カット)」の2種類がある。

 

 宇山が主戦としているのがエペだ。エペは全身が有効面である。極端な話、頭の先から足先のどこを攻撃してもポイントになる。一番の特徴は「攻撃権」が存在しない点だ。他の2種目と違い、明確な攻守交代はない。いついかなる時でも攻めてよい。その反面、いつ攻められるかわからない。そこに駆け引きが加わるのだ。常に緊迫した展開が続く。

 

端正な顔つきをした策士

 

IMG_1914(加工済み第1回) 身長の低い日本人にエペは不利……。こんな定説もあるくらいだ。そんな日本エペの希望の光となり得るのが、身長189センチで駆け引きと守備がうまい宇山だ。

 

 なぜ、日本人が不利とされるエペで宇山は輝けるのか。宇山はこう説明する。

 

「エペは身長が高い方がどうしても有利な場面が多い傾向にある種目です。国内では僕が一番大きなサイズですが、これでも海外の選手と同等のサイズ。(腕と剣の)リーチを使って攻めるというよりも、リーチを使って守っているという感覚です」

 

 

 攻撃権がないエペ。宇山の戦法はその特性を生かしたものだ。

「おびえながら目をつむってたまたま差し出した剣が相手に当たってしまえば、それもポイントになります(笑)。どこかを突こうとすると、反面、隙も生まれる。僕は攻めるふりのフェイントを出し、わざと隙を作ります。そうすると相手はカウンター攻撃をしてくる。(そこに生じた相手の隙をついて)カウンター返しを狙うのが僕のスタイルです」

 

 宇山は「僕は(リーチを生かして)遠くからチョコチョコ突いているだけ」と笑いながら謙遜する。相手を自陣に引き込むように少しずつ下がっていく。相手は歩を進めながら宇山の誘いにかかり、手を出す。そこを宇山は一瞬で仕留める。伏線を張り、罠にかける様は蟻地獄のように映る。

 

 だが、計算高い剣士もマスクを取れば25歳の好青年の顔をのぞかせる。競技中に見せる動きの鋭さとは裏腹に、おっとりと優しい口調でひとつひとつを丁寧に語る。宇山は、どのようにして育ったのだろうか。

 

(第2回につづく)

 

IMG_1884(プロフ用)<宇山賢(うやま・さとる)プロフィール>

1991年12月10日、香川県生まれ。兄の影響で中学1年からフェンシングを始める。県立高松北高2年時にインターハイ優勝。高校卒業後は同志社大学商学部に入学。全日本学生選手権を2回生から3連覇を果たす。同大卒業の14年、家具量販店に就職するが、フェンシングとの両立を考え同年9月に退社。その1年後、三菱電機に入社した。15年、16年ワールドカップ男子エペ個人で銀メダルを獲得。16年アジア選手権男子団体の優勝メンバー。身長189センチ。

 

(文・写真/大木雄貴)

 

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