第625回 広島、ハムに見るVの条件は走塁
盗塁なくして優勝なし――。
そんな傾向が、昨季のプロ野球の結果からは見てとれる。
昨季、セ・リーグで最も盗塁が多かったのは25年ぶりのリーグ優勝を果たした広島の118。2位・東京ヤクルトの約1.4倍。パ・リーグも同様のことが言える。トップは10年ぶりの日本一を達成した北海道日本ハムの132で2位の福岡ソフトバンクの1.2倍。
「走塁の意識が変わればチームが変わる」
このコンセプトの下、チーム改革に取り組んでいるのが中日である。練習試合とオープン戦の6試合で17盗塁。走塁改革の先頭に立つのがヘッドコーチの森脇浩司だ。
オリックスの監督を務めたこともある森脇は2014年、巨人2軍守備走塁コーチに就任した。
前年、巨人2軍の盗塁数は60。それを2.5倍の152まで増やしたのである。
疑わしきは沈め――。
これが森脇の指導方針だった。
「もし一塁まで戻りかけたところで、ピッチャーが本塁に投げ、バッターがボテボテの三遊間のゴロを打ったとする。わざわざ戻ったりしなければ、かなり高い確率で二塁はセーフになる。だが戻ってから再スタートを切っても二塁はアウト。下手したら併殺の危険性だってある」
広島と昨季最下位の中日との違いについてWBC日本代表メンバーでもある中日の平田良介から、こんな話を聞いた。
「次の塁を狙う姿勢の差。俊足の選手だけではなく、ベテランの新井貴浩さんまで妥協しない」
では広島と日本ハムは、なぜ走る意識が高いのか。広島・緒方孝市、日本ハム・栗山英樹。監督が2人とも俊足の外野手だったことに起因してはいまいか。
緒方は95年から3年連続で盗塁王に輝いた。栗山は主に控えだったが、代走で起用されるなど、足には光るものがあった。
野村克也の語録にこうある。「外野手出身監督に名将なし」
しかし、昨季の日本シリーズは、ともに外野手出身監督がチームを率いた。「走塁」をキーワードに、流れが変わりつつある。
<この原稿は2017年3月20日号『週刊大衆』に掲載された原稿です>