サイドからのクロスをゴール前のストライカーが頭で合わせた。そんな時、必ずと言っていいほど解説者やアナウンサーから言われる言葉がある。

 

「いいクロスでしたねえ」

 

 なるほど、ドリブルでの突破から決めたシュートなどとは違い、ヘディングシュートはアシスト者の果たす役割がずいぶんと大きいのは事実である。ただ、最近になってちょっと思い始めたことがある。最近の日本、あまりにもクロスの側にスポットをあてすぎではないだろうか、と。

 

 わたしが子供の頃、日本の絶対的なストライカーは釜本さんだった。テレビ中継がされることなどほとんどなかったし、された試合で釜本さんのヘディングシュートを見た記憶もあまりないが、しかし、釜本さんが決めたシュートは、釜本さんだけがアナウンサーや解説者から絶賛されていた印象がある。

 

「いいクロスでしたねえ、釜本は合わせるだけでしたねえ」なんて実況は、聞いたことがない。

 

 なぜこんな昔話を持ち出したのかというと、最近の札幌の試合を見ていて、感じるところがあったからである。

 

 都倉賢のヘディングシュートが美しすぎて。

 

 釜本さんがそうだった。海外で言うと、80年代から90年代にかけて西ドイツ代表として活躍したカールハインツ・リードレあたりがその典型例か。巨漢とは言い難い体格ながら、空中で停止したかのような錯覚を覚えさせる滞空時間から、鋭角的な一撃をたたき込む。1メートル80に満たない身長しかなかったにもかかわらず、現役時代のリードレは「エア・リードレ」とも「空の要塞」とも言われたが、それが誇張だとは誰も思わないほど、制空権を握る能力は高かった。

 

 いまの都倉には、リードレがダブる。あるいは、オーストラリア代表のカーヒルか。

 

 公表されている都倉の身長は1メートル87。日本人の中では大柄な体格であることは間違いない。だが、彼のヘディングは、身長ではなくポジション取りの上手さと走り込むタイミングの良さ、そして何よりもジャンプ力を最大の武器としている。タイプとしてはマインツでプレーしている武藤にも同じにおいを感じるが、パンチ力の印象では都倉に軍配があがる気がする。

 

 ちなみに、彼が今季ここまでにあげたゴールは「5」。攻撃のバリエーションが豊富とは言い難い札幌にあって、都倉の存在とヘディングは真っ先に警戒されるポイントなのだが、それでもゴールを量産しているのは見事というしかない。

 

 近年の日本代表には、ポストプレーとしての高さを武器にする選手はいても、怪鳥のごとくゴール前に舞い上がるタイプがいない。劣勢を強いられることが多い札幌で得点を稼いでいるというのも、W杯における日本の立ち位置を考えるとより評価できる。いま、わたしが一番注目しているストライカーである。

 

<この原稿は17年5月11日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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