プロ野球12球団のキャンプは中盤に入り、実戦形式の練習や紅白戦も増えてきた。ここからは約1カ月半後の開幕に向け、どのチームも試合の中で新しい戦力を見極め、1軍に残る選手を絞り込む作業に入っていく。注目の新人や移籍選手、チームの浮沈を握る新外国人、気になる主力選手はどんな状態なのか。宮崎で行われている各球団のキャンプを巡ってきた当サイトのスタッフライターがレポートする。
(写真:巨人キャンプには長嶋終身名誉監督が来場)
☆2月10日(日)巨人キャンプ 快晴、気温11度

 車、車、また車……巨人のキャンプ地・宮崎県総合運動公園へ向かう道路は朝から大渋滞だ。それもそのはずである。この日は3連休の初日。しかもミスター・ジャイアンツ、長嶋茂雄終身名誉監督が視察に訪れるとあって、早くから多くの観客がメイン球場となるサンマリンスタジアムに詰めかけた。

 長嶋さんはサンマリンスタジアムから、ブルペン、そして2軍が練習するひむかスタジアムへと足を運んだ。ミスターが移動するところは、どこも黒山の人だかり。ファンの前に姿を見せると、「ミスター!」「長嶋さ〜ん!」との声がひっきりなしに飛ぶ。
「長嶋さんが監督をしていた頃を思い出すような賑わいだな」
 二宮編集長が昔を懐かしむようにポツリとつぶやく。私は長嶋さんの現役時代をリアルタイムで知らない人間だが、引退から40年近く経っても衰えない人気を改めて実感させられた。まさに“ミスターの前にミスターなし、ミスターの後にミスターなし”である。

 さて、そんな長嶋さんが熱い視線を送っていたのがドラフト1位ルーキーの菅野智之だ。ブルペンに入ると、低めに伸びのある球を集め、ミットがパーンと乾いた音を立てる。そのたびに観客からは「オオッ」と声が漏れ、ミスターも納得の表情を浮かべた。菅野本人も調子が良かったのだろう。時折、笑みを浮かべながら力強い球を次々と投げ込んでいた。
(写真:スライダーやカットボール、カーブなどを交えて46球を投げた)

 北海道日本ハムからの指名を拒否し、1年の浪人生活を経ての巨人入り。ブランクが心配されたが、この日のピッチングを見る限り、即戦力として1年目で活躍しそうな印象を強くした。長嶋さんは「悪くても12、13勝」と“予言”した。課題と言われてきたコントロールがプロで改善されれば、その数字は現実のものとなるはずだ。

☆2月11日(月)広島キャンプ 晴、気温15度

 16年ぶりのAクラスを目指す広島のカギを握るのは6人の助っ人勢だ。今季は右腕のミゲル・ソコロビッチ、俊足巧打の外野手フレッド・ルイスを獲得。先発のブライアン・バリントン、昨季途中から抑えを務めたキャム・ミコライオ、一発が期待できるブラッド・エルドレッド、ニック・スタビノアと1軍の外国人枠(4名)を巡っての競争が繰り広げられるだろう。

 中でもルイスは元監督の達川光男氏が「バットコントロールがいい。僕の現役時代に対戦した(ウォーレン・)クロマティみたい」と絶賛していた。バッティングフォームはクロマティとは異なるが、確かに広角に打ち分けるタイプのようだ。
(写真:センターのバックスクリーンに打球を当てるなど、パワーも兼ね備える)

 ただ、この日のランチタイム中の特打では、来日後初の打撃投手を務めたソコロビッチと対戦して1球も打球を前に飛ばせなかった。キャンプ初日にインフルエンザに感染したこともあり、まだ調子は上がっていない。変化球に対して完全にバランスを崩す場面もあり、日本のピッチャーにどれだけ対応できるかも成否のポイントとなる。

 一方のソコロビッチは同じくランチ特打をしていた前田智徳からストレートで空振りを奪うなど、ヒット性の当たりを許したのはわずかに2本。140キロ台後半のストレートとスライダー、シンカーなどの変化球を駆使し、セットアッパーとしての期待が高まる。初めての登板とあってボールのバラつきも目立ったが、「これからまとまってくる」と本人は気にしていない様子だ。

 それにしても感心させられるのは、前田の高度なバッティング技術である。午前中の練習が終わる頃にマスコットバットを手にグラウンドへ現れ、ティー打撃で体を温めていく。片手打ち、逆手打ちとひととおりのルーティンを終えるとケージに。スイングすれば必ず芯に当て、糸を引くような打球を外野へと運ぶ。この時期だと、主力打者でもポップフライを上げたり、ボテボテの当たりが少なくない中、この男の辞書に“打ち損じ”という言葉はないのかとさえ思わせる。

 前田のバッティングをネット裏から見ていた二宮編集長も「若い頃から彼のバッティングは踏み込みが鋭い。ボールを打つというより、仕留めるに行っている感覚」と評した。40歳を超え、体は満身創痍だが、技術はまったく錆付いていない。今季も勝負どころでの一振りには目が離せない。

(石田洋之)