オランダに大勝し、日本はWBCで3大会連続の準決勝進出を決めた。オランダ戦こそ打線が爆発したが、それまで侍ジャパンを支えてきたのは層の厚い投手陣だ。激闘となった台湾戦でも最終的には投手力の差が明暗を分けた。充実したピッチングスタッフの一翼を担うのが昨季の沢村賞右腕・攝津正(福岡ソフトバンク)である。入団1年目からセットアッパーとして2年連続で最優秀中継ぎ投手に輝くと、先発転向後も昨季は17勝をあげ、最多勝のタイトルを獲得した。先発、中継ぎの両方で安定した成績を残してきた秘密はどこにあるのか。二宮清純がインタビューした。
(写真:多くの投手を悩ませているWBC使用球にも「特に抵抗なくやれている」と話す)
二宮: 先発投手にとって最高の栄誉である沢村賞と、最優秀中継ぎ投手のタイトルを両方獲得しています。これは史上初のことです。先発でも中継ぎでも成功した理由はどこにあると自己分析していますか。
攝津: 僕には他のピッチャーと比べて絶対的に秀でているものがありません。だから平均的に7回、8回まで投げて1点、2点しか取られないピッチャーを目指しています。そのためにはコントロールと緩急がポイントになると感じているんです。

二宮: 確かにピッチングを見ているとコントロールの良さが光ります。どのような練習で制球力を磨いたのでしょう。
攝津: 社会人(JR東日本東北)に入った頃はコントロールが良くなかったんです。テイクバックも大きくてフォームがばらついていました。それで何年かやっていたのですが、常に打たれてしまうような状態が続いて……。そこで、もう一度、自分のピッチングを見つめ直して、どうしたらコントロールが良くなるかを考えたんです。試行錯誤しながら、フォームを見直したり、練習量を増やしたりしながら、今のスタイルにたどり着きました。

二宮: コンパクトなテイクバックも制球力を重視するためなんですね。
攝津: そうです。無駄な動きを省こうとやっているうちに、あんなフォームになりました。

二宮: 攝津さんは自身の生命線としてインコースの使い方をあげています。ホームベースとバッターボックスのラインまでの間、幅にすると15センチくらいのエリアにボールを投げ込むと。
攝津: はい。ボール2つ分くらいの間隔ですね。常にその中にインコースのボールは投げられるように意識しています。右バッターなら、真っすぐと内側に食い込むシンカーを投げる。足元に落ちながら食い込むボールはバッターにとって死角になりますからね。それにインコースを突いておくと、アウトコースも広く使えます。この内外の投げ分けに緩急を組み合わせるのが僕のピッチングの基本線です。

二宮: つまり、それによってバットの芯を外したり、タイミングを狂わせる。バッターに凡打を打たせるのが理想ということでしょうか。
攝津: 三振をとるよりも内野ゴロをいかに打たせるか。それが自分の調子を見極めるひとつの基準になっています。

二宮: その15センチの幅を使おうと考えたのはプロに入ってから?
攝津: 社会人の5、6年目頃ですね。コントロールを意識して投げているうちに、そこへ投げれば打たれることが少ないと分かりました。ならば、同じところへ投げられる確率を上げれば連打も打たれないし、勝てる確率も高くなる。それで一層、インコースの制球に気をつけて練習に取り組むようになりました。
(写真:社会人生活は8年にも及んだ。「正直、プロは諦めたところで(ドラフト会議で)指名されたので戸惑いもあった」と振り返る)

二宮: それから踏み出す足のステップの幅は5.8歩が理想だとか。これもフォームを固めていくうちに発見したものでしょうか。
攝津: 5.8歩というのは感覚ですが、6歩目の親指の付け根ぐらいのところへ、踏み出した足の爪先が来るようになればOKです。踏み出すステップが小さいと体重が乗りきらず、いいボールがコントロールよく投げられない。調子がいい時は意識しなくても、その幅で投げられています。ただ、体調によって幅が変わってくるので、常に一定になるように気をつけています。

二宮: 今や福岡ソフトバンクのエースとして、他球団からのマークも年々、厳しくなっていると思います。今季、何か新しいことに取り組もうという考えは?
攝津: それは特にないですね。今のピッチングで、より精度を高めていければと思っています。そしてマウンド上では、どんなことがあっても「平常心」でひとりひとり目の前のバッターを打ち取っていく。それが一番大事だと自分に言い聞かせています。

<今週発売中の講談社『週刊現代』(2013年3月23日号)では攝津投手の特集記事が掲載されています。こちらも併せてお楽しみください>