WBCで一躍、知名度をあげたピッチャーといえば、彼の名前があがるのではないか。埼玉西武の牧田和久だ。侍ジャパンの抑えとして、3試合に登板して無失点。アンダーハンドから繰り出すボールで外国の強打者を完全に牛耳った。ピッチングのみならず、激闘となった第2ラウンド初戦の台湾戦でのダイビングキャッチも印象深い。西武に戻ってからは先発を任され、今季初登板となった2日の福岡ソフトバンク戦では9回途中1失点で勝利投手となっている。世界を驚かせたサブマリンに二宮清純がインタビューした。
(写真:周りからは「楽しそうに投げている」と言われるが、本人は「結構、必死なんです」と笑う)
二宮: WBCでは素晴らしいピッチングでした。この経験は相当、自信になったでしょう?
牧田: 投げていて外国のバッターのスイングは僕が投げる高めのボールに対して接点がないように感じました。当たってもファウルやフライにしかならない。外のスライダーも前に飛ばされていなかったので、全く打たれる気がしなかったです。

二宮: 高校からアンダースローに転向したそうですが、参考にしたピッチャーはいますか。
牧田: 山田久志さんのフォームなどを写真で見てマネていましたが、大きく腕を振り上げるのは肩にも負担がかかって自分には合いませんでした。それで高校時代は野球部の部長さんにもアドバイスをもらいながら、自分なりにフォームをつくっていきました。イメージとしてはテイクバックを体の後ろで隠すようにして投げる感じです。

二宮: 部長からのアドバイスは具体的には?
牧田: 「手の甲をずっと上に向けて投げろ」と言われました。これを意識すると投げる時に手首が寝ない。リリースの際にも手首が自然と立つようになりました。

二宮: アンダースローというと変化球でかわす印象もありますが、牧田さんは常々、「ストレートが一番の武器」と発言していますね。
牧田: そうですね。他球団の選手にも「真っすぐが速い。差し込まれる」と言われます。それは自信にはなりますが、僕自身としては、いつも打たれそうな感覚なんです。だから大切なのは、真っすぐをいかに速く見せるか。高低左右を使うことはもちろん、緩急やフォームの強弱をつけてバッターのタイミングをちょっとでもずらすことを考えています。

二宮: ピッチングのテンポもいい。その点も意識していますか。
牧田: バッターは自分のタイミングで入りたいものですが、その間を与えないことが大事だと思っています。どんどん投げれば、バッターはイラついてきますからね。社会人時代はバッターが打席を外しても、審判はタイムをかけないことが多くて、そういう時は、ど真ん中に投げてストライクをとっていました。ただ、プロの場合は、すぐタイムがかかる。その点はスピーディーにやったほうがいいんじゃないかと感じますね。

二宮: 試合時間短縮が叫ばれている時代ですからね。むやみに打席を外すのを審判が認めなければ、もっと試合展開が早くなるはずです。
牧田: そうですよね。いくら好きでも、3時間も4時間もファンはずっと見ていられないと思うんです。特に子どもたちは集中力が続かないでしょう。あっさり終わったらつまらないかもしれませんが、2時間30分くらいで試合終了になるのが一番ベストではないでしょうか。

二宮: 牧田さんの影響で、アンダースローが再び脚光を浴びてきています。アンダースローの一番のおもしろさはどこにあるでしょう?
牧田: まず、バッターが慣れていないところでしょうね。それから緩いカーブも効果的です。緩いボールで焦らされた後で真っすぐを投げると速く見える。そういう変幻自在なピッチングでバッターを翻弄できるのが魅力です。本格派のオーバースローはどんどん三振を奪うのが気持ちいいでしょうけど、逆に僕たちはタイミングをずらして、打たせて取るのが楽しいです。
(写真:マウンドは低いほうが好み。「(マウンドが低い傾向にある)地方球場は投げやすい」と明かす)

二宮: 西武では今は先発ですが、1年目にはクローザーの経験もあります。両方やってみて、どちらが自分に合っていると思いますか。
牧田: どちらかといえば先発でしょうが、抑えでもクイックを使ったり、間を変えることでバッターは打ちにくいはずです。だから、どちらでも大丈夫かなと。
 
二宮: 今季の西武は、中島裕之選手がメジャーリーグに移籍し、中村剛也選手もケガで出遅れています。投手陣の頑張りが例年以上に求められますね。今季の目標は?
牧田: 個人的なものは特にないですね。いつも通りのピッチングができれば、それなりに結果はついてくると思っています。それよりも、やはり優勝して皆でビールかけがしたい。WBCではできなかったので、なおさら優勝したい気持ちが強いです。

<現在発売中の講談社『週刊現代』(2013年4月13日号)では牧田投手の特集記事が掲載されています。こちらも併せてお楽しみください>